きょうの総決起集会の大きな特徴は、私たちの住まいを守る上で決定的に重要な課題を、新たな情勢のなかで取り組んでいるという2つの点にある。

T 公団住宅政策の現状

 私たちの住まいは、公団住宅の将来とともに、かつてなく危険な瀬戸際におかれている。

1)公団住宅の売却・削減
(=民営化)
 小泉内閣以来「官から民へ」「規制改革」の名目で、公団住宅については縮小、売却の方針を閣議決定し、財界に「儲かりそうな団地」からの部分民営化を急げと言わせてきた。都市機構はこの方針に従い、「UR賃貸住宅ストック再生・再編」の名で団地減らしを始めている。

2)市場家賃化、家賃減額措置への圧力

 家賃については、民間と同じにするのは当然、値上げの抑制や減額は、都市機構のすることではないと圧力をかけられている。経営改善を第一にすべきだ。
 家賃の支払いがどんなに重く辛くても、払わなければ住み慣れた団地に住めない、生きていけないので、やっとの思いで払っているのが現実だ。収入に見合った家賃にし、安心して住み続けられるようにしてほしいというのが切なる願いである。

3)定期借家契約の導入

 家賃が払えず、いつ団地を出なければならなくなるのかの不安に加えて、こんどは権利の上でも長く住んでいられなくする政府方針が出されている。定期借家契約の導入、機構はこの5月から当面32団地の空き家入居に適用し、2009年度は全住宅77万戸の2割、約15万戸に拡大すると発表した。
 私たちが機構と結んでいる今までの契約では、家賃滞納等の落度がないかぎり、いつまでも住んでいられる。機構が一方的に追い出すことはできない。これには借家人は裁判で争える。
 定期借家だと機構の方針では5年契約。期間が来たら即解約、契約更新や、まして立ち退き補償は一切ない。問答無用で退去することになり住まいの安心は得られない。住まいが不安定では地域参加も自治会加入も考えられない。定期借家になればコミュニティは崩壊していく。
 従来の借家権は、家主に「正当事由」がなければ勝手に店子を追い出せない制度だ。借家人の居住継続を法的に保護している。これが土地・建物の売買、建て替えや再開発の邪魔だと、不動産業界やデベロッパーは目の敵にし、正当事由制度をなくし、借家人を自由に追い出せるよう借家法の改悪を唱えてきた。これには私たちの運動を含め反対が強く、10年前、やむなく従来の借家権とは別に「定期借家」契約を議員立法で作った。これまでの借家権を定期契約に切り替えることは「当分の間」は禁じているが、なんとかこの制限を取り払い定期借家を広めていこうと当初から企んできた。
 これはもともと民間借家での拡大を当てにしたものだが、10年たっても民間で新規契約のせいぜい5%しか普及していない。借家人に不利、民間家主にもメリットなし、むしろ空き家が増える心配があるからだ。民間さえ見向きもしない定期借家を、空き家をかかえた都市機構が先頭をきって公共住宅に、年間20%も強行拡大しようとする。途方もない、あきれた暴挙である。

4)「経営改善」徹底、団地管理の民間委託拡大

 今回の全国統一行動に私たちは、公団住宅売却・民営化阻止、高家賃引き下げ、定期借家反対の他、住宅修繕・住環境改善、団地管理の民間委託反対等の要求も掲げている。これらの問題にはすべて、機構が公共住宅としての役割から撤退し、国民の資産である公団住宅を民間に売り渡そうとした旧政権からの大方針が根本にあり、個々具体的に対応する必要とともに、全体・共通の問題として取り組まなければ解決の道は開けないことはいうまでもない。

U 自治協運動の到達点

 では、以上の問題について私たちの運動の今日までの到達点はどうか。まだ成果とは言えないが、現状を報告する。

1)家賃値上げの当面延期は

 今年4月からの家賃値上げについては「当面延期」を勝ち取った。大臣の要請を機構が受け入れたという形がとられたが、民主、自民両党の議員連盟、国会各党の強力なご支援をいただいたのと私たちの運動の画期的な成果だった。
 しかし「当面の延期」であって中止ではない。これをきっぱり中止にさせ、さらに高家賃引き下げをめざすのが、今年の課題である。
 さる10月28日の機構基本問題懇談会家賃部会でも楓自治協代表は当然中止を求めた。これにたいし機構は、「機構は実行機関だからルール通りいつでも値上げ実施できる準備はしている。実施の可否については、大臣の判断もありうるから情勢を見て決定する」との対応だった。機構が「大臣から機構に中止を要請するように働きかけよ」と自治協に示唆してくれているように思えた。署名提出の際にも国土交通大臣に強く要請する。

2)定期借家の導入実施は
 定期借家の導入はどうなっているか。5月からと発表した方針の実施はまだ聞いていない。
 定期借家阻止では私たちの運動は先手を打って進んでいる。国会各党への要請をはじめ、Q&A自治協パンフを活用しての学習活動等をつうじ、「公団住宅に定期借家導入は不当」との認識は急速に広まった。機構は導入理由を「政府決定だから」としか説明できず、担当大臣の「私も分からない」「政府側でもっと議論を詰めなければ」との国会答弁が、私たちの背中を押してくれている。こうしたことで政府も機構も実施に踏みきれないできている。
 地方議会からも定期借家に反対する意見書が出始めている。10月7日には神奈川県議会がいちはやく意見書を採択した。近く12月議会では各地自治会の請願・陳情が多数採択される予定。

3)団地再編は
 団地再編、民間売却等の進捗状況は、団地ごとの固有の事情や、方針策定以前からの経緯があったりで、家賃や定期借家のように一律に言い切れない難しさはある。
 以上の3点が、私たちの居住不安の大元であることは明白だ。

V 公団住宅政策転換への問題点と方向


 その元を作ったのは直接的には小泉内閣以来の規制改革会議であり、この規制改革会議こそ弱肉強食政治をもたらした元凶で廃止すべきだと、2009年の1月、期せずして自民、民主両党が参議院の代表質問で主張したことを思い出す。
 住宅政策だけではなく、雇用や社会保障など生活のあらゆる面で国民を不安と困窮に追いやってきた政治はもうゴメンと、8月30日の総選挙で政権交代に多くの人びとが期待をかけたのは当然のこと。
 きょうは新政権になって初めての総決起集会であり、ご出席の国会議員の方々に総選挙のときの熱い思いと願いをそのままにぶっつけ、また新政権への期待と不安について率直に意見を述べたい。

1)「規制改革会議」路線の撤回表明と抜本見直し

 (民主党マニフェスト、事業仕分け方式へ の不安)
 第1に、すでに民主、自民両党の代表がその廃止を主張し、私たちの住まいにとって諸悪の根源である規制改革会議の答申による閣議決定を、新政権はまず撤回し、少なくとも「国民の生活が第一」の立場で抜本的に見直すことを早急に表明していただきたい。また民主党のマニフェストについて、たとえば「定期借家の普及推進」はあっても「公共住宅の供給促進」は見当たらないなど、気になる点も残されており、公約実現に先立っては再度、当事者たちの実情と意見を十分に汲み取り、広く国会でも論議をし、見直すことを要望する。とくに「独立行政法人は全廃を含め抜本的に見直し」と大きく書かれており強く要望する。
 規制改革会議はまだ解散していない。正式会議も続けている。
 行政刷新会議の「事業仕分け」の仕分け人名簿を見たら、規制改革会議のメンバーが何人か、ここにも入っている。前政権下で公団住宅廃止、定期借家推進を叫んだ名うての強硬派たちだ。事業仕分けの記録を見ると、「建て替え戻り入居者の家賃減額は不当」、「URは賃貸住宅をもっと減らせ」等の意見が飛び交い、国土交通省住宅局長の説明は、旧来の方針をなぞって説明しているだけだった。政権交代は、私たちの要求実現に必要な条件だが目的を果たすのはこれからの活動にかかっている。

2)国の住宅予算の激減傾向

 大きな問題で第2に触れておきたいのは、国の住宅予算が激減していること。小泉内閣が登場する直前の2001年度が国費で1兆1,860億円だったのが自公政権末期の2009年度は6,266億円と8年間に約半減、新政権になっての2010年度の予算概算要求はまた2割減の5,037億円と、小泉前の42%に激減している。来年度の予算要求にあたって当局が総選挙投票日の8月30日に決めた要求額7,300億円を、10月15日になって5,073億円と3割減らして要求し直した理由も聞きたい。
 人間生活の基本である衣食住のうちの住のための国費が国の予算の1%にもはるかに及ばない現実は、政権をだれがとっても国民の住生活確保にとってお寒いかぎりだ。予算の額と増減動向からも今後の住宅政策が心配になる。

W これからの外にむけての運動課題
 さてそこで、私たちに今からどういう運動が必要か。とくに新政権になって、しかも議員一年生が多い国会にたいし、また人事異動の激しい政府にたいし何を基本的に要求していくか。新政権への移行のなかで機構の方針、対応も変わらざるをえないことに期待し、運動をさらに発展させていきたい。

1)居住者の生活実態のアピール
 まず第1に何といっても、団地の生活と住まいアンケート調査の結果をもとに、公団住宅居住者の生活と収入の実情、高家賃・家賃負担の実態を広く知ってもらうこと。事実こそが私たちの何よりの武器で、力だ。

2)公共住宅の役割と必要性の再確認

 第2には、公団住宅が昔も今も果たしている大きな役割と必要性を訴えていくこと。個々人の住居確保とともに、まちづくり、地域コミュニティ形成の上でも現に果たしている役割を強調する必要がある。
 個々人がめいめい勝手に作る住宅の集まりだけでは本来、まちづくりとは言えない。公共が計画にしたがい集合住宅を一定戸数作ってこそ、都市の景観を生みだし国全体の居住水準を底上げる基礎になる。わが国の公共住宅は全住宅数の7%足らずだが、ヨーロッパ先進国では20〜30%ある。昨年、ベルリンの6団地が世界遺産に指定された。石造りでも木造でもなく鉄筋コンクリートの低層・中層、80〜90年ほど前に建設された団地だ。これをだいじにして今も住んでいる。住民の誇りであるとともに国の貴重な資産、世界遺産にまでなっている。
 住宅確保を民間、自力まかせで住宅難民の多いアメリカに見習うのではなく、ヨーロッパ並に公共住宅を増やすことが肝要だ。公団住宅の削減・売却は、世界の良識にも逆行する。すぐ止めるべきだ。

3)住まいは人権、最低限度の居住保障の確立

 第3に、こうしたわが国の住宅政策の貧困は、居住の安定を国民の「基本的人権」と認めていないことと関係している。国民だれもが保障される最低限度の居住水準を国として定め、そのうえ国および地方で住宅政策を確立すべきだ。最近「地方主権」ということが言われている。そのまえに「国民主権」だ。国の責任をあいまいのまま地方まかせにするならば、たいへん危険なことだ。
 最後に、11月16日の事業仕分けで住宅局長は国土交通大臣から機構業務全体の見直しの指示があったと伝えている。独立行政法人の全廃を含む見直し作業開始も報道されている。制度、政策等の見直しを「有識者」といわれる人たちに委ねる方式が、新政権になっても採られている。たまたま私がお目にかかった「有識者」は何の有識者か分からず仕舞いで、有識者だと聞くと今では疑いたくなる。そういう有識者だから大胆な改革ができると私に言った若い役人の言葉に妙に説得力があったのを覚えている。

4)「初めに独法廃止ありき」ではなく、公共住宅政策の事実上の後退を許さず
 ここで強く要望しておきたいのは、まず切実な願いをもつ私たち当事者の声と実態に直に接し、十分に話し合いがもてて相互理解が深まり、国会でも慎重に論議していただきながら、これまでの政策、制度の見直し、まさに「国民の生活が第一」の立場を貫いて政策づくりを進めてほしいという点だ。

5)基本要求を掲げ国会・自治体への要請強化
 以上の4点は、国会議員の方々、政府・都市機構にむけての要望、要求であるとともに、だれよりも先ず、私たち自身が要求実現のためやり抜かなければならない課題であり、私の基調報告の最大のポイントであると述べ、報告を終わる。


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家賃値上げ反対、定期借家導入許さない

2009年全国公団住宅居住者総決起集会


基調報告  多和田栄治代表幹事