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公団住宅の「部分民営化」を急ぎ、居住権の骨抜きをねらう

規制改革会議第3次答申を読む

 政府の規制改革会議(議長は日本経団連前副会長、草刈隆郎日本郵船会長)は、2008年12月22日「規制改革推進のための第3次答申―規制の集中改革プログラム―」を発表しました。そして同月26日に閣議は、答申を最大限に尊重し、所要の施策に速やかに取り組むこと、09年3月中に「規制改革推進のための3か年計画」を再改定することを決定しました。

◆与野党代表が公言する規制改革会議廃止の声      
 いま国会では、1月30日付夕刊をみると、規制改革会議の新答申どころか、同会議の廃止が叫ばれ、各紙が報道しています。 
 「規制改革会議廃止を迫る―代表質問で自民・尾辻氏」の見出しで「朝日」夕刊は、麻生首相の施政方針演説にたいする自民党の尾辻秀久参院議員会長の代表質問の一部を伝えました。規制改革会議について「会議のあり方に強い疑念を持っている。経営者の視点で規制改革が進められ、その結果、派遣の大量打ち切りとなり、多くの人を失業に追い込んだ」と指摘し、同会議と経済財政
諮問会議の廃止を求めた、とあります。
 同記事には、民主党の輿石東参院議員会長の、「日本社会の崩壊の危機をもたらしたのは、小泉構造改革以来の市場原理主義、弱肉強食政治の結果だ。そこにメスを入れない限り、社会の再生はできない」との発言も記されています。規制改革が構造改革の核をなし、クルマの両輪となっ小泉構造改革を進めてきたのは経済財政諮問会議と規制改革会議ですから、両会議とその役割についての見解は両党代表に共通といえます。
 くわえて記事は、尾辻質問への答弁で鳩山総務相が「かんぽの宿」一括売却問題に関連して、「政府の委員会等に深くタッチされた方は、それに関連する事業から身を引くべきだ」と、宮内義彦オリックス会長を批判したことも報じています。宮内氏は1996年に行政改革委員会規制緩和小委員会の座長につき2006年、小泉退陣とともに規制改革・民間開放推進会議(当時)議長を辞任するまでの10年間、トップの座を占めて規制改革の旗ふり役をつとめてきました。川上で「改革」の流れをつくり、川下で改革利権を得て儲け口を広げたのは宮内氏一人ではないでしょうが、とくに彼は「平成の政商」といわれ、その一端が「かんぽの宿」でした。
 麻生首相は1月28日の施政方針演説で構造改革と一線を画したとされていますが、自民・民主両党代表の規制改革会議にかんする指摘に「首相は否定」とあります。

◆今なぜ規制改革か
 第3次答申は「はじめに」で、なぜ規制改革推進が「喫緊の課題」かを述べています。
 これまで規制改革は「官から民へ」をスローガンに、市場原理至上主義、自由な経済活動を阻害する規制の撤廃をかかげてきたのにたいし、新答申は冒頭に、アメリカ発の国際的な金融・資本市場の混乱がわが国経済にも波及し、景気は下降局面に突入したことを理由に持ちだし、国際競に耐え、企業活動を活性化するには「規制改革推進は今まで以上に重要である」ときわめて短絡的に結論づけています。
 外から津波が押しよせ、わが国に甚大な被害が出たのは防波堤が脆弱なためで、その防波堤役の国内各分野のセーフティネットを壊してきたのが、上記の代表質問も指摘したように、「規制改革」でした。同会議にその反省を求めるのは無理ですが、私たちはさらに、政府の構造改革とその核をなす規制緩和が、アメリカ政府の対日「年次改革要望書」と、経営のアメリカ型化をめざすわが国財界の言いなりになって進められてきたことを私たちは知っています。

◆改革すべき分野と今後の取り組み
 この答申の恐ろしいのは、同会議に反省がないどころか、経済界の目先きの狭い利益に目がくらんで、まともな現状認識もできないまま、「改革」の矛先をさらに国民生活の基本分野に向けてきていることです。
 同会議は2008年7月2日、第3次答申にむけて出した「中間とりまとめ」でこう述べています。「残念ながら、医療、保育、農業、教育等、強固で硬直的な規制の下にある分野、官自らが事業を行っている分野などにおいては、改革されるべき課題がなお依然として厚い岩盤のように存在している」と。
 したがって審議は、・社会保障・少子化対策、・農林水産業・地域、・生活基盤、・国際競争力向上、・社会基盤(住宅、雇用など)、・教育・資格改革、・官業スリム化の7分野に集中し、答申内容が09年3月「規制改革推進のための3か年計画」再改定に余すところなく反映し実施されることを注視していく、としています。

◆官業スリム化、まず公団住宅の「部分民営化」
 規制改革会議は当初から官業改革の対象として、資産規模の大きい独立行政法人をあげ、都市再生機構をその「典型的な法人」と位置づけてきました。なかでも賃貸住宅事業を標的に、77万戸の規模は過大、削減目標の明確化と資産売却を迫ってきたことは周知のとおりです。答申がそのまま閣議決定され、都市機構の「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」(2007年12月26日発表)となって、いま私たちの住まいを存廃の危機にさらしています。
 これにたいし都市再生事業について答申は「機構は民間では行使しえない土地収用権などを発動し、民間では負担しきれない事業リスクを負担し、事業が進みリスクが少なくなった段階で民間に売却すべき」と財界の強欲丸出し、答申の本音を露わにしています。
 機構の賃貸住宅事業について第3次答申が新たに打ちだしたのは、「部分民営化」の推進とあわせ、「住宅セーフティネット機能維持」の限定的容認の方向です。  
 答申はまず、早期に賃貸住宅事業の官民役割分担を明確にし、民営化すべきものと引きつづき官営で対応すべきもの等の提示を求めています。そのうえで民営化に際しては、その規模の大きさからすべてを同一の事業者に委ねる(全部民営化)のではなく、各物件の特色や地域性などを考慮して、民営可能な部分のみを機構から切り離して民営化する(部分民営化)手法が有力と提言しています。手っ取り早く儲かる団地から民営化を急ぐ「現実的な」手法を探っていることが分かります。
 その見込み薄のところは、住宅セーフティネット機能の必要を名目に現状のままを容認しています。ただしここでも、その「必要があるとしても、独立行政法人としての独立採算性を求めて実施することには限界があり、地域における公営住宅との役割分担も含めて幅広く検討すべきである」と、機構独自の住宅セーフティネット機能維持には否定的、ないし極めて消極的です。
 この新提言の背景には、アメリカでのサブプライム住宅ローンに始まる国際的な証券化市場の破綻により、証券化を柱に公団住宅の全面的な民営化を検討してきた道が閉ざされた現況や、住宅セーフティネットの構築を求める世論の高まりなどが考えられます。しかし規制改革会議に代表される勢力とその御用学者たちの、貴重な社会資産を企業利益のために我が物としようとする執念は衰えず、むしろその有利な早期実現の道を急いでいます。

◆定期借家契約の幅広い導入に拍車
 公団住宅にたいする第3次答申が新たに打ちだしたもう一つは、部分民営化の方向のほかに、定期借家契約の強権的な拡大の方針です。
 同会議答申および政府の「3か年計画」は、建て替え予定団地以外もふくめ定期借家契約の幅広い導入を求めてきました。第3次答申に向けた「中間とりまとめ」では定期借家契約の導入が遅れていると機構にハッパをかけました。
 同時に定期借家制度の導入を、この制度が導入されて民間でファミリー向け賃貸住宅の供給が促進される方向にあると、都市機構による供給の必要性見直しの理由にあげています。他方で、住宅セーフティネット法(2007年制定)の下とはいえ、機構が採算を度外視して供給するとなれば、経営に重大な影響を及ぼしかねず、機構本来の設立趣旨に反することとなると、つまりファミリー向けにもセーフティネット向けにも住宅供給は慎むべきと釘を刺しています。
 第3次答申はその剣幕を強めています。
 「閣議決定にもかかわらず、機構の定期借家契約導入は遅々として進んでいない」国土交通省と機構は、閣議決定を厳に遵守し、定期借家契約の一層の導入を図るべきである。あれこれの言い訳は許されない。機構は年間約7万戸の退去住戸があるが、導入実績は累計で約2,200戸にすぎない。今後の募集対象範囲は、2008年度中に団地再生・用途転換団地においては約70団地43,000戸に拡大し、「一般団地」について08〜09年度に全国で30団地を選び導入を図れと迫り、09年度に措置すべき「具体的施策」を押しつけています。
 「少なくとも平成20年度から21年度において、管理開始年代、立地、家賃帯等の面で代表例と見られる団地を試行的に選定して、団地再生事業等を予定しているストックを含む機構の全賃貸住宅ストックの約2割の住宅を対象に、新規入居募集については、すべて定期借家契約を締結すべきである」と。
 答申は、公団住宅「改革」の標的を私たちの借家権に絞ってきたといえます。

◆なぜ急ぐ定期借家契約の拡大
 第3次答申は定期借家契約の導入・拡大を、公団住宅だけでなく公営住宅(「社会基盤」(1)住宅・土地分野・)にも求めています。公営住宅には「新規入居者への積極的な導入」、公団住宅には新規入居者とは限定せず「幅広い導入」と、導入押しつけの幅に違いがみられますが、公共住宅居住者全体の居住権を弱めようとしている点は見逃せません。
 公営住宅では、「収入超過者が住みつづけ住宅困窮者が入居できないでいる。住み替えを促すには定期借家契約は極めて有効」と導入の理由をあげています。デマで定期借家契約の導入を図ろうとしています。東京都の場合、石原都政下9年間で都営住宅新設はゼロ、応募倍率は6年間に4倍に急増、08年5月の募集では公募 956戸に申し込み者は約5万5千人、平均倍率57倍。住宅困窮者が公営住宅に入居できない理由が公営住宅の絶対数不足の放置にあることは明白です。
 公団住宅への導入の理由ははっきりしています。「定期借家契約であれば期間満了時の家賃改定、退居の要請など柔軟に対応が可能である。また、家賃改定等に伴うさまざまなトラブルで機構は裁判など法的措置を多数行っているが、こうしたトラブルについても、期間の定めのある定期借家契約であれば、多くの問題は解消し、紛争処理コストも大幅に下がる」と家主側の利益しか頭になく、「管理コストの削減は住民の負担軽減にも資する」との付け足しには呆れるしかありません。
 私たちが機構と結んでいる普通借家契約は居住の継続保護が目的ですから、家賃は家主の一存だけで値上げはできませんし、家主に「正当事由」がなければ追い出しもできません。家主にとっての「規制」をなくし、入居のさい定めた契約期限がきたら問答無用で退居することになるのが定期借家契約です。
 旧来の普通借家と新たな定期借家の違いは、いま大問題の、正規社員と派遣・期間社員の関係と同じです。
 「再生・再編」で団地を売却したり移転を求めるうえで機構にとって「障害」になるのは、居住者・自治会の結束のつぎに、私たちの借家権ですし、こ
の借家権は正当事由制度で守られています。建て替え、団地再編といっても現状では、居住者に明け渡しを請求する法的に正当な理由にはなりません。
 人間の住まいを取り扱い自由な「商品」としか見ない企業家、民営化推進派にとっては、現行の普通借家権と正当事由制度は撤廃すべき「規制」以外のなにものでもなく、部分民営化するにも、定期借家契約への事前の切り換えは必要な前提条件であるとするのは、容易に理解できます。借家人にとっては居住権が骨抜きにされることです。

◆あらためて定期借家契約とは何かを問う
 いま規制改革会議を牛耳る八田達夫議長代理や福井秀夫委員たちは、わが国の借家が劣悪なのは、正当事由制度で借家権が保護されているからだといい、借家権の存続保護の廃止と定期借家制度の導入を以前から提唱していました。
 生活基盤としての居住の安定の重要性と、家主と借家人の立場の強弱を考慮して旧来の借家法が借家人保護を図ってきたのは事実です。明け渡し請求は正当事由が問われて家主のままならず、継続家賃の改定も当事者間の協議が求められ、借家経営が忌避されてきたから、ファミリー向け借家は不足し、不足しているから家賃が上がる。これらの規制をなくせば、借家経営は改善され、供給が増え家賃は下がるというのが、不動産業界と一体になった定期借家推進派の主張でした。
 定期借家制度の導入が1999年に「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」の名で議員提案されたのも、そのためです。
 導入から10年。この間に法律の効果として良質な民間賃貸住宅、ファミリー向け賃貸住宅の供給は促進されたのか、家賃低下傾向がみられたのか、そもそも定期借家契約が普及しているのか。
 定期建物賃貸借の規定をもうけた借地借家法は付則でこの法律の施行状況を検討するとしていますが、法務省や国土交通省にたずねても調査はしていないと、状況を明らかにしていません。国交省の2003年調査では、住居・事務所あわせた全新規契約に占める定期借家の比率は4.7%との数字があり、その多くはワンルームマンションと事務所用借家といいます。
 「良質な賃貸住宅の供給促進」を名目に導入した定期借家制度は、当初から私たちが指摘し、不動産業界のねらいどおり、借家関係終了の手段となり、「借家人追い出しが目的」だったことが明白になっています。
 定期借家契約は、これを民間の借家市場に押しつけることもならず、権力を背景に公的賃貸住宅に強要する以外に普及の見込みはないのでしょう。
 借家権の継続性が否定された契約のもとでの市民生活、営業は考えられません。まして地域とのかかわり、コミュニティ形成への参加を期待することは不可能です。定期借家は安定した居住、営業の否定であり、コミュニティを崩壊にみちびくものです。
 都市機構は、規制改革会議の答申丸呑みの政府方針に屈して、定期借家契約の導入団地を指定してくるでしょう。機構は「再生」類型に指定した団地では、いちはやく空き店舗の補充を3年期限の契約で募集を始めています。はたして応募があるのか、3年でモトがとれる商いがあるのか。商店街を寂れさせるとの声が聞かれます。
 定期借家契約の導入・拡大阻止は、私たちの極めて重要な運動課題になってきます。

◆規制改革会議答申にきっぱりノー、同会議の廃止を
 私たちは答申阻止の立場を明確にし、その実現のための諸活動を展開していくことは言うまでもありません。
 答申ノーは、国の基盤をなす公的な住宅資産と国民の居住安定を守る立場にたつならば、世論と国会状況を背景に国交省、都市機構も声をあげるべきです。
 厚生労働省は第3次答申が出るとすぐ、答申の最大限尊重を閣議決定した当日、2008年12月26日に「考え方」を発表しました。厚労省は医療、福祉・保育・介護、労働分野の行政に責任をもつ立場から答申が主張する個々の「問題意識」について反論を加えています。
 まず「規制改革を進めるにあたっては、経済的な効果だけでなく、サービスの質や安全性の低下を招いたり、公平かつ安定的な供給が損なわれることがないか、規制緩和の結果、労働者の保護に欠け、生活の不安感を抱かせないか、等の観点から慎重な検討が必要である」との立場を明示しています。この観点から、たとえば答申の「株式会社参入による医療の質の向上」論にたいし、株式会社は利益を生み、その利益を株主に還元するのが本質である。したがって患者の必要と株式会社の利益は必ずしも一致せず、利益にならない患者は治療を受けにくくなる。利益があがらなければ撤退して地域医療に支障をもたらす。利益最大化を計ることにより医療費高騰のリスクが高まる等々、的確に反論しています。
 わが国が積み上げてきた社会資産と政策実績、国民生活の基盤を根底から崩しかねない理不尽な「規制改革」答申を正す責任と行動は、国会、政府にも求められています。

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