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規制改革会議が第3次答申で公団住宅を攻撃
定期借家契約、09年度に大幅拡大を要求

民間がほしがる団地の「部分民営化」主張
 「内閣総理大臣の諮問機関」の規制改革会議(議長=草刈隆郎日本郵船会長)は12月22日、「規制改革推進のための第3次答申――規制の集中改革プログラム」を決定、答申しました。独立行政法人都市再生機構に対しては、「具体的施策」として@民間的な経営手法の活用推進、Aセーフティネット機能を踏まえた制度の検討(@Aは平成22年度措置)とともに、B・既存賃貸住宅への新規入居者との賃貸借契約は定期借家契約を幅広く導入するべきである(平成21年度措置)と、とんでもない要求をしています。

 規制改革会議は、国や地方公共団体が公的事業として実施してきた事務・業務を「官から民へ」の旗印のもと、「規制の改革」により民間企業に市場開放し、民営化する「小泉構造改革」の推進役となってきました。その路線の破たんが明らかなのに、今回の答申ではなおも社会保障、農林水産業、生活基盤、教育などの分野で「規制」廃止の項目をあげ、「着実かつスピード感のある改革が実行に移されること」を求めています。
 麻生内閣は同26日の閣議で、・規制改革会議の「規制改革推進のための第3次答申」に示された「具体的施策」を最大限に尊重し、所要の施策に速やかに取り組む、・平成20年度末までに「規制改革推進のための3カ年計画(改定)」を改定するとの閣議決定を行いました。


 
◆「賃貸住宅は魅力無く、機構だけで再生できない――部分民営化を」と主張
 規制改革推進第3次答申は、独立行政法人都市再生機構に関して「7.官業スリム化―(1)官業改革分野」の項で「(ア)組織・業務の在り方」、「(イ)都市再生機構における定期借家契約の幅広い導入」について「問題意識」を述べ、「具体的施策」をあげています。
 「組織・業務の在り方」の「問題意識」では、規制改革会議がその前身の規制改革・民間開放推進会議以来、都市再生機構の業務の必要性について「民業圧迫等の観点」から「精査」し、賃貸住宅事業に関して、公営住宅階層の居住者が大半を占めている物件の地方公共団体への譲渡、建替え事業の厳選と制度の抜本的見直し・家賃減額の縮小、77万戸の賃貸住宅の削減目標の明確化などを提言してきたが、「しかし、これらについての進捗(しんちょく)は十分とは言えず、当会議としては、機構の組織の在り方について抜本的に見直すべきと考える」として、賃貸住宅の「部分民営化」を主張しています。
 この賃貸住宅事業の部分民営化については、公団住宅がエレベーターが無いなど民間賃貸住宅とくらべて魅力的な住宅になっていないなどと決めつけ、公的主体の機構のままで団地再生を行うのは限界があり、「官民役割分担を明確にしていく仕組み」を構築し、「民営化すべきものと引き続き官営で対応していくもの」を分けて、いくつかの業態を想定した将来像を提示せよ、「民営可能な部分のみを機構から切り離し」、公募形式で「各賃貸住宅物件」を売却する民間事業者を募る手法を検討せよと、200万人近い居住者が住んでいることを無視し、機構賃貸住宅が我がものであるかのように、企業が営利追求できる団地の民営化など勝手な要求をつらねています。
 賃貸住宅事業に関する答申の「問題意識」の概要は<別項1>のとおりです。
 「問題意識」は規制改革会議の議論で出された意見をまとめたもので、ただちに実施すべき項目としているわけではありませんが、一部の特異な意見をもった人たちの密室での議論を「答申」などと銘打って麗々しく列記し公表するやり方は、容認できるものではありません。
 都市機構の組織・業務の在り方での「具体的施策」は次の2項目です。民間的な経営手法の積極的活用=業務・運営の民営化に向けた取り組みと、都市機構としてセーフティネット住宅を維持することには限界があるとして、公営住宅との役割分担などの検討を要求しています。これについては12月26日の閣議で「最大限に尊重し、所要の施策に速やかに取り組む」と決定されました。
a 民間的な経営手法の活用推進【平成22年度措置】
 機構の組織の在り方について幅広く検討するとともに民間的な経営手法の活用を積極的に推進すべきである。
b セーフティネット機能を踏まえた制度の検討【平成22年度措置】
 賃貸住宅事業について、セーフティネット機能の維持が必要であるとしても、独立行政法人として独立採算制を求めて実施することには限界があり、地域における公営住宅との役割分担も含めて幅広く検討すべきである。

 
◆都市機構の全賃貸住宅の2割の住宅を対象に新規入居募集はすべて定期借家に
 第3次答申は「問題意識」で、2008年3月25日の閣議決定「規制改革推進のための3カ年計画(改定)」で都市機構の「既存賃貸住宅への新規入居者との賃貸借契約は、建替え予定の団地以外においても、定期借家契約を幅広く導入する」と決定しているのに、「都市機構による導入の取り組みは遅々として進んでいない」として、「閣議決定内容を素直に解釈すれば……新規入居者募集のうち、少なくとも半分以上は定期借家契約を締結すべきである」「国土交通省及び機構は、閣議決定内容を厳に遵守し、定期借家契約の一層の導入を図るべきである」と、閣議決定を金科玉条にして、都市機構への敵がい心をむき出しにした要求を行っています。
 そして次の「具体的施策」を2009(平成21)年度に措置せよと迫っています。
 「既存賃貸住宅への新規入居者との賃貸借契約は、建替え予定の団地以外においても、定期借家契約<別項2>を幅広く導入するべきである。少なくとも平成20年度から21年度において、管理開始年代、立地、家賃帯等の面で代表例と見られる団地を試行的に選定して団地再生事業等を予定しているストックを含む機構の全賃貸住宅ストックの約2割の住宅を対象に、新規住宅募集については、すべて定期借家契約を締結するべきである。」
 規制改革会議がこのように執拗に定期借家導入を要求する理由についても、「問題意識」はあからさまにこう書いています。
 「普通借家契約と異なり、定期借家であれば期間満了時の家賃改定、退去の要請など柔軟に対応が可能であり、貸主である機構の整理合理化に向けても資する契約形態である。また、家賃改定等に伴う様々なトラブルで機構は裁判など法的措置を多数行っているが、期間の定めのある定期借家契約であれば、多くの問題は解消し、紛争処理コストも大幅に下がる」――つまり家賃改定・値上げ、団地再生事業での居住者追い出し、法的な紛争処理が容易になるというわけです。
 公団住宅(機構住宅)の目的は「都市基盤整備公団から承継した賃貸住宅等の管理等に関する業務を行うことにより、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の安定的な確保を図り、もって都市の健全な発展と国民生活の安定向上に寄与する」(都市機構法1条)ことです。居住の安定をはかり、安心して住み続けられる施策の推進こそが重要であり、居住者の居住権を損ない、居住を不安定にする定期借家制度の全面的導入は、都市機構が自らその目的に反し役割を否定することになります。
 規制改革会議の、企業の利益のために国民の居住権を制限しようとする不当な「提言」に強く反対し、居住者の住まいと権利を守る運動を強化しなければなりません。とりわけ3月末の閣議決定までの取り組みが重要です。

 <別項1>都市機構賃貸住宅事業に関する答申の「問題意識」概要
○ 機構の賃貸住宅約77万戸のうち43万戸が昭和40年代から50年代前半にかけて建てられており、建物の老朽化、5階建てなのにエレベーターが無い、時代に合わない間取り等の課題を抱えていると共に居住者の高齢化に伴う課題の指摘もある。
○ 都心における高額な賃貸物件の供給が民業を圧迫しているという指摘もある。
○ 機構は、建替えやリニューアルにより、課題への対応を図っているが、公的主体という枠組みの中での対応であり、エレベーターが無いといった課題の解決は図られておらず、民間が供給する賃貸住宅と比較して魅力的な住宅にはなっていない。
○ 機構が有するすべての賃貸住宅事業について、公的主体としての枠組みを維持しつつストックの再生を行うことには限界があり、民間の活力・総意工夫を活かしていく部分を相当程度組み込んでいくことが必要である。
○ 賃貸住宅事業については可能な限り早期に官民役割分担を明確にしていく仕組みを構築し、民営化すべきものや引き続き官営で対応していくべきもの等、幾つかの業態を想定した将来像を提示していくべきである。
○ 民営化に際してストック再生のための一時的な資金が必要であったとしても、現在の独立行政法人の形態で継続的に公費を支出し続けるよりはトータルでの公費支出削減に寄与する。
○ 民営化に際しては、その規模の大きさから事業の全てを同一の事業者にゆだねるのではなく、民間事業者がその活力・創意工夫を発揮しやすい手法として、例えば公募形式によって各賃貸住宅の物件の特色や地域性などを考慮して自らの力で運営できると判断した民間事業者が事業を実施することを検討すべきである。
○ この場合において、機構の賃貸住宅事業の全てを民営化(全部民営化)するのではなく、民営可能な部分のみを機構から切り離して民営化(部分民営化)する手法が有力となる。
○ セーフティネット機能の維持が必要であるとしても、独立行政法人として独立採算制を求めて実施することには限界があり、地域における公営住宅の充実化、居住者への直接補助等の公費支出削減とセーフティネット機能の実効性のバランスを講じられる制度を検討すべきである。

 <別項2>定期借家契約 
 賃貸借契約に定めた期限が来たら、住宅の貸主に契約更新を拒否する正当な理由が無くても、その期限で契約が終了するという賃貸借契約。一般の賃貸借契約は、契約の期限を定めても、借地借家法により貸主に契約を更新しないことについて正当な理由がない限り、契約は更新されます(法定更新制度)。
 定期借家契約の導入は、不動産業界やゼネコン等の要請でくり返し試みられましたが、学会や法曹界の強い懸念、借家人と全国自治協などの反対運動により借地借家法「改正」を行うことができませんでした。そのため推進者たちは1999年の通常国会会期末に自民・自由・公明3党の議員立法で「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」という法案を提出、その中に「借地借家法一部改正」を盛り込みました。同国会では継続審議になりましたが、同年秋の臨時国会で賛成多数で可決・成立、2000年3月1日施行されました。
 この時に業界の意を受けて推進の旗を振った大学教員などのグループ(定期借家研究会)の中心にいた福井秀夫、安念潤司両氏が、規制改革会議の委員として、定期借家導入拡大を答申に書き込むことに執念を燃やしてきたのです。
 厚生労働省が批判・反論を発表
 厚生労働省は閣議決定と同じ日、「規制改革会議『第3次答申』に対する厚生労働省の考え方」を発表しました。医療分野および福祉、保育、介護分野、労働分野での同答申の「問題意識」に対して、「意見の取り上げ方に公平性を欠くものや、その基本的な考え方や今後の改革の方向性・手法・実効性において、当省の基本的な考え方と見解を異にする部分が少なくありません」として、答申の主張と並べて同省の見解・批判・反論を掲げています
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1226-12.html)
 なお、国土交通省はいまのところ反論など発表していません。

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