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都市機構の在り方調査会報告に反論し、報告書の撤回を求めます。

                                  2012年8月31日  全国公団住宅自治会協議会

 独立行政法人都市再生機構の在り方に関する調査会は、8月28日に「報告書」を発表しました。1月20日の閣議決定が都市機構「業務の見直し、分割・再編、スリム化」、賃貸住宅の「特殊会社化」について検討を託し、内閣府に設置した調査会の結論です。
 発表まえに日本経済新聞(8月18日付夕刊)は一面トップで報道し、「URの改革案が固まったことで民主党政権が進める独立行政法人改革にメドがつくことになる」と書き、政権の企図にふれました。朝日、毎日の2紙は8月29日付朝刊で、その内容が機構賃貸住宅の分割、株式会社化であることを端的に伝えました。
 公団住宅はこれまでも、歴代政府が「行財政改革」をとなえるたびに標的にされ存続の危機に立たされてきました。1981年の土光臨調では「行革第1号」として日本住宅公団を廃止し、新公団の目的から「勤労者のため」をけずり、96年の橋本ビジョンでは消費税5%への引上げにあわせ、住宅・都市整備公団から「住宅」の看板をはずし都市基盤整備公団に、2001年の小泉構造改革では、公団など特殊法人や国立機関が独立行政法人に改編され、都市公団は都市機構に変わりました。民主党政権になり消費増税と一体改革をまえに「身を切る」一策として急浮上、機構賃貸住宅の分割、株式会社化の検討にはいりました。
 公団住宅を民営化し売却して国の財政赤字解消に充てよというのが、当初からの変わらぬ政財界のかけ声でした。多数の庶民が住まいの命綱としている公共住宅をなくすことに大義があるはずはなく、居住者の切実な反対運動とこれを支える世論も強く、今日まで公共住宅として存続してきました。
 今回の調査会の報告書は、機構賃貸住宅を一部なりとも株式会社化して、公共住宅の縮小、廃止へ大きく歩を進めるものであり、私たちは報告書の撤回を求め、調査会提言にもとづく立法化等に反対していくことを表明します。

1.機構財務を口実に「株式会社化して公共住宅廃止」がねらい

 報告書は、都市機構の各事業、関係会社等の全般にわたってあれこれ提言していますが、そのねらいが賃貸住宅の削減、株式会社化にあることは明白です。しかしその理由にはもっぱら財務状況をあげ、「13兆円を超える負債と2600億円の繰越欠損金をかかえ、金利リスクや不動産下落リスクが顕在化すれば、状況はさらに悪化する」と強調します。財務の現状では理由にならないとみたのか、「将来の国民負担とならないよう」「今後のおそれ」を煽っています。いずれにせよ、機構財務の問題点が賃貸住宅事業に原因があると思わせるように描き出し、賃貸住宅「民営化」にむけた世論づくりが目につきます。
 政府資金(郵貯、簡保、年金積立金など)を高利で運用させる受け皿としての役割、家賃収入できずきあげてきた負債を上回る14.7兆円の社会資産の存在、公団がバブル崩壊後、住専処理等で銀行・大企業の不良債権土地を大量に買い込ませ、その地価下落による欠損金、これらについて報告書は、政府の責任もふくめ一切言及していません。
 事実は逆で、さまざまな制約のもとでも賃貸住宅事業だけが機構で唯一安定的な純利益をあげており、都市再開発の事業収益は不安定、ニュータウン事業は損失つづきです。これらの赤字の穴埋めは、実質500〜700億円の純利益をあげている家賃収入から流用されています。
 民業補完の都市再開発やニュータウン事業の赤字穴埋めに、賃貸住宅部門にもっと稼がせる一方、売却して国の財政赤字の縮小に充てるための「改革」が本報告書のねらいと読めます。私たちのいう「民営化」とは、機構賃貸住宅を株式会社にして収益本位の経営に変え、資産も売却して、公共住宅としては廃止することをさして言います。

2.売却を積極的に進める「株式会社」、「行政法人」も市場原理で収益改善

 報告書は、機構賃貸住宅を「株式会社」(企業経営分野)と「行政法人」(運営改善分野)に分割することを提言しました。
 団地を、家賃の高低(団地内では高低の分布)をはじめ、将来的な収益性や売却見込み等によって事業会社か行政法人かに分割する。その際「真に行政法人において実施する必要がある部分以外は事業会社が基本」といいます。しかも当初の分割を固定化せず、「状況に応じて」その後も法人資産を事業会社に委託、譲渡するとしています。
 さらに行政法人にせよ「市場家賃で運営」、「入居者の所得水準等についても公営住宅等とは政策上の位置づけが異なるとの事業の性格を大前提」とあえて明記し、「中間所得層」を対象とみなしての施策の維持を迫っています。報告書は冒頭、日本住宅公団にはじまる都市機構の「当初の目的はすでに失われた」といいつつ、施策対象の建て前は今後も変えないと、明らかな矛盾も辞さない立場です。
 報告書の破綻は、賃貸住宅の組織分割、行政法人の「在り方」を並べているだけで、その明確な基準も施策内容も明示できない点にあらわれており、それだけに極めて危険です。
 岡田担当大臣は国会で「たとえば家賃10万円程度で区切る」と答弁しました。東京23区で10万円以上は約5万戸、全体の半数、その他首都圏では約9万戸、3割近くが株式会社化の対象になります。その上、新法人ではストック再生・再編方針による集約を優先的に実施せよとハッパをかけています。これまでも機構は再編方針で2010年までの5年間で7,200戸余削減しました。機構賃貸住宅は削減、民営化にむけての凄まじい暴挙が強行しようとしています。

3.居住者の居住安定確保の具体策はまったくなし

 3月に調査会が示した『基本的な方向性』では、「収益改善を期待」分野と「政策的な対応が必要」分野への分割といい、調査会資料をみると、機構の団地居住者は過半が公営住宅階層であり、大都市では公営住宅が絶対的に不足しており、機構賃貸住宅の役割を再考する必要があるとの意見も出されていました。報告書にその視点はまったくありません。
 それどころか、事業会社は「速やかな株式売却」をめざし、行政法人は目標を「自律的な経営にもとづく財務構造の改善」にさだめ、そのための取組みについて具体的に列挙しています。団地ごとの損益状況による管理方式、民間方式による維持管理コストの削減、集約による住戸の削減、等々。 
 報告書には、前後の文脈に関係なく、たしかに「その際には、賃貸住宅の居住者の居住の安定の維持等の必要を十分踏まえつつ、地域において形成されているコミュニティの実態等も勘案して対応する必要がある」との一文はあります。しかし、それを担保する措置についての記述はまったく見当たらず、文言だけに終わっています。

4.分割に道理はなく、公共住宅全廃への過渡的措置

 独立行政法人とは「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの」をおこなう、と定められています(通則法2条)。報告書の機構賃貸住宅の分割案、株式会社化は、現在も公共的役割を担っている機構住宅をただちに切り離し「収益本位の経営」にゆだねることであり、「事業会社化が基本」の立場から、行政法人下の住宅も「状況に応じて」事業会社に移す一方通行の門戸を開いています。「分割」に道理ある根拠と見通しがないばかりか、分割でさえなく、全株式会社化への経過措置というべきです。
 8月30日の民主党議連の席上、行政改革推進室の松村武人次長は、報告書について「組織は2つでも財布は1つ」と説明しました。要するに機構「改革」の目的は1つ、財務構造の再編であり、そのために賃貸住宅の「分割」から始め、公共住宅としては全廃をめざしていることは明白です。そのために新たな官僚天下り先の増設も、組織分割にともなうコスト増、分割後の住宅管理の予想もつかない無駄と非効率の発生もかえりみない姿勢です。

5.住まいを奪い、コミュニティを壊す調査会提言

 機構賃貸住宅を家賃水準等によって分割し、居住者を分断する。同一団地でも住棟別に家賃の高低によって区分し、住宅の管理方式も損益管理を徹底するともいいます。
 同じ住棟でも1階は商店、2階は大家族用、3階以上は単身者用住宅という例はめずらしくありません。集合住宅ですからライフラインは連結しています。居住者収入は平均して公営住宅階層が過半を占めるとはいえ一様ではなく、個々人の収入も生涯をつうじ浮沈があります。建物も経年のなかで維持管理コストに変遷があります。居住者も建物も実にさまざまな多様性と変化のなかでコミュニティが形成され、住まいの安定が得られているのです。この事例から大きく離れ、明らかに「公共上の見地から必要としない」物件があるとすれば、特別に処理することは許されます。
 調査会報告書は、庶民の住まい・コミュニティの本質にたいする無知でなければ非情をさらし、国民生活に重大な影響をもたらす問題にたいしても皮相な金銭上の損得勘定だけでしか判断しないグループの提言にすぎないことを、みずから証明するものです。
 提言内容の実施が、長年にわたってはぐくんできたコミュニティ、隣人関係をこわし、その地域できずいてきた住まいの安定をおびやかすことは明白です。なお、とくに大都市で、被災地等で公共住宅の拡充を求め、期待を抱いている人々は、政治不信をさらに深めるでしょう。

6.家賃収入を食いものにする都市再開発とニュータウン事業

 機構業務にメスをいれるべきは、民業補完を機構第一の使命とかかげ政官業の利権構造をきずいてきた都市再開発部門であり、ニュータウン事業です。機構財務を悪化させ、ガンともいうべきこれらの部門は今回の「改革」でも聖域とし、賃貸住宅とおなじ「行政法人」に組み入れています。その理由に、賃貸住宅部門の安定した収益とキャッシュフロー、賃貸住宅収入からの利益の繰り入れをあげており、調査会が提言する機構「改革」の本音を際立たせています。

7.当事者抜きの密室談合の結論に正当性はない

 調査会は「居住者からの意見聴取」もおこない報告書をまとめたといいます。2月22日の第2回会議で全国自治協井上事務局長(当時)がコミュニティ活動に限って約15分間の発言が許され、8月22日には取りまとめを前にした第15回会議で、興梠事務局長、片岡、黒田両幹事の3名が合計約15分発言の機会をえたことを指します。全16回にわたる会議の会議録、その発言要旨さえも非公開のままです。社会的に弱い立場におかれ、しかも重大な影響をこうむる当事者を調査会のメンバーに加えないばかりか、ほとんど排除しての密室談合による結論に正当性がないことは、報告書の内容を検討するまでもなく、調査会の進め方だけからもいえます。

8.現内閣に求められているのは公共住宅政策の確立

 調査会は「はじめに機構の分割・特殊会社化ありき」をもとに検討を進め、わが国の住宅事情、住宅政策との関連性等への視点、なりよりも過去の経緯の検証・反省、政策実現の現実性への考察はまったくみられません。
 国民だれもが安心できる住生活確保への国の政策をしっかり確立し、その基盤があり、従来施策の点検と反省に立ってこそ、大小さまざまな改革の成功が保障されます。その意味で本報告書は初めから破たんしており、内閣はこれを白紙にもどし、国民安心の住宅政策を確立することが求められています。

9.全国自治協は要求します。

1)公共住宅制度の事実上の廃止はもとより、公共住宅戸数の削減は許せません。都市機構賃貸住宅の分割、株式会社化に反対します。

2)都市機構の在り方調査会報告書(2012年8月28日)の撤回を求めます。

3)機構賃貸住宅居住者の生活実態を直視し、「住宅セーフティネット」法などの法制上の位置づけ、都市機構法付帯決議等を厳守し、その諸事項の実現を求めます。

4)機構賃貸住宅を公共住宅として継続発展させるとともに、公共住宅の役割を明確にし、民間・公共住宅の別なく国民だれにも最低限度の居住保障をする住宅政策を確立してください。
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