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都市機構の「事業仕分け」に向け「あり方検討会」を設置

住宅分科会に全国公団自治協がヒアリング出席

居住者実態を説明し公共住宅としての存続を要請

 都市機構の全面見直しに当たってUR賃貸住宅を存続させるかどうか、いま住んでいる76万戸の居住者の扱いをどうするか等を検討する国土交通省「独立行政法人都市再生機構のあり方に関する検討会」第2回住宅分科会が3月8日開かれ、ヒアリングが行われました。ヒアリングでは全国公団自治協の井上紘一事務局長が居住者の実態を説明し、「UR賃貸住宅を公共住宅として継続してもらいたい」と要望しました。
 この検討会は政府の行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫内閣総理大臣)による全独立行政法人と政府関連公益法人事業の「ゼロベース」での見直し(事業仕分け)が4月23日から始まるのに先立ち、国土交通省自らが所管の都市再生機構の業務範囲と組織の見直し等について検討を行うために設置したもの、今年夏までに見直しに必要な論点整理を行うこととし、検討会の下に住宅分科会、都市分科会、経営分科会の3つの分科会を設けて議論を進めています。

あり方検討会第2回住宅分科会で全国自治協が説明
UR賃貸住宅は公共住宅として存続させるべき

居住者は高齢化・低収入化、住み続けたいと希望

 井上事務局長は最初に全国自治協の組織と活動について紹介したあと、「UR賃貸住宅の居住者の実態」を第8回団地の生活と住まいアンケート調査結果にもとづいて説明。居住者の実態は、・長い居住年数の世帯が多くなり、・女性の世帯主が多くなり、・単身ないし2人世帯が大多数となり、・世帯主の高齢化が急速に進み、・年金が収入の中心世帯をはじめ低収入世帯が激増し、・多くの方が「公団(UR)賃貸住宅に長く住み続けたい」と願っている――と特徴づけました。
 ついで「現居住者をどうするか」の論点について、国会附帯決議の「居住者の居住の安定を図ることを政策目標として明確に定める」との項目の実行により居住の安定策を推進することが政府の責務であると強調しました。
 「76万戸の賃貸住宅の今後のあり方」について、井上事務局長は時間の制約上、次の4項を主張しました。 
 第1、今後とも適切な管理組織とシステムのもとで、いま住んでいる居住者だけでなく、多くの国民・都市住民に不可欠の公共住宅として、国民共有の財産として、良好な維持管理のもとで継続させるべきである。
 第2、公営住宅は増えず、倍率がものすごく、公共住宅に入りたいという高齢者・子育て世帯の願いがUR賃貸住宅に向けられている。民間賃貸住宅で入居を断られる高齢者・等の「最後の望みの綱」ともいえる存在になっている。高齢者向け優良賃貸住宅は民間では進まず、約3万戸の実績のうち約2万戸、65%を都市機構が供給、少子高齢化への種々の取り組みが広がり、地域の拠点として団地が役割を果たすことが期待されている。
UR団地は安全・安心な遊び場があり、緑が多く四季の花々が咲き、子育てには絶好の環境。子育て世帯には魅力であり、若い人々の入居が増えている。
 団地の環境は地域にとっても魅力的で周辺のマンションなどから子どもたちが遊びにきて、公共住宅だからこその役割をはたしている。
 第3、地震国日本の大都市における、公共住宅としてのUR賃貸住宅の存在の価値は高い。阪神・淡路大震災では住宅内で亡くなった方は一人もいなかった、機構はすべての住棟の耐震診断を行い、新耐震基準を満たしていない建物の改修を進めているが、それとあわせて居住者による自主防災組織がつくられているUR団地は災害対策上でも貴重な存在である。
 第4、各地の団地には居住者による自治会がつくられ、長年にわたって活動しコミュニティをつくってきた。公団住宅・UR住宅は居住者たちの自主的・自発的な取り組みによってコミュニティ活動が創造・発展させられ、価値あるものとなっている。現在のUR団地は半世紀にわたって住んできた人びとの努力の結晶の側面があることを理解するべきである。
 第2回住宅分科会では、ヒアリング説明者の退席のあと、地方公共団体に対するアンケートの結果が報告されました。UR賃貸住宅が果たしている役割、住宅政策におけるUR賃貸住宅の位置づけなどに関して、14都道府県・26市区からの回答を整理したものです。

国土交通省・独立行政法人都市再生機構のあり方に関する検討会第2回住宅分科会ヒアリングでの発言
2010年3月8日
全国公団住宅自治会協議会事務局長  井上 紘一
 全国公団住宅自治会協議会の井上でございます、よろしくお願いいたします。この住宅分科会で発言の機会をいただけたことにお礼申し上げます。
 今日は、UR賃貸住宅の居住者の実態を中心にして、76万戸の賃貸住宅の今後のあり方についての居住者の要望などについて発言させていただきます。
 なお、私たちの団体名については「全国自治協」と略させていただきます。

●全国自治協について
 はじめに、全国自治協についての自己紹介をしておきます。
 UR団地には公団住宅時代から、多くの団地で居住者の自治組織である自治会がつくられ、さまざまな活動を行い、団地にコミュニティをつくってきました。全国自治協はこの団地自治会の全国組織であります。
 1955年に日本住宅公団が設立され、翌年から公団住宅への入居が始まり、年を重ねるごとに団地が増えていきます。「高嶺の花」と言われた団地には、駅からの交通のこと、保育所のことをはじめ団地生活上の問題がいろいろあって、それらを居住者の手で解決するため各団地に自治会ができるようになり、地域ごとに自治会同士の連絡のネットがつくられるようになりました。
 1974年に、全国各地の自治会協議会が参加して全国自治協が結成され、以来35年間、活動をすすめてきました。
 私たちは、「安心して住みつづけられる公団住宅」「国民だれもが安心と豊かさを実感できる住宅政策」という目標、合い言葉をずっと掲げてきています。政府の住宅政策において、いま、「安心居住」「居住の安定」ということが普遍的な政策目標になってきています。たいへんうれしく思っている次第です。

●UR賃貸住宅の居住者の実態――アンケート調査結果から
 それでは今日の主題である「UR賃貸住宅居住者の実態」について、資料「第8回団地の生活と住まいアンケート調査の集計結果」にもとづいて説明いたします。
 全国自治協は23年前の1987年に第1回目を実施して以来、3年ごとに「団地の生活を住まいアンケート」調査を行ってきました。直近では一昨年2008年9月に第8回目を実施しました。アンケート用紙を全国226団地の全戸23万2,202戸に配布し、10万1,780戸から回収しました。回収率は43.8%です。
 回収結果の推移をごらんになっていただければわかりますが、毎回ほぼコンスタントに11万前後の世帯の協力を得た調査となっています。
 集計結果で明らかになったUR賃貸住宅居住者の実態の主な特徴は以下のとおりです。
<高齢化―60歳以上世帯主62%>
 ○ 第1の特徴は、世帯主と居住者の高齢化がいちだんと進んでいるということです。世帯主では、70歳以上が34%、60歳以上となると62%を占めています。団地に住んでいる居住者全体でも60歳以上の住民は47%、著しい高齢化の進行です。
 世帯主について言えば、女性世帯主が増加し3分の1近くになっていること、世帯構成人数は1人または2人の世帯が約7割になっていることも、以下に述べることと相互関係があります。
 現居住者の「いまの団地に住み始めた年」は、公団住宅ができたいちばん最初の昭和31年から39年までに住み始めた方が5%です(昭和30年代の多くの団地が建て替えになりましたが、5%の方が住み続けています)。昭和40年から49年までの方が21.8%で、昭和30年代、40年代合わせて約27%、つまり4分の1以上の世帯が団地居住年数50年から43年ということになります。
 さらに昭和59年までの入居17.6%を加えると、いまの団地に住み続けている年数が「24年以上」という方が44.4%を占めています。
<256万8,000円以下57%> 
 ○ 第2の特徴は、低収入世帯が大幅に増えていることです。年収(家族合算、税込みの年収)が、256万8,000円未満世帯が57%を占めるに至り、443万円未満のいわゆる第1分位世帯は70%です。サラリーマンとして勤め上げ、定年となり、年金生活に入っている世帯が激増し、「年金が収入の中心」世帯が36%となっているなど、居住者の高齢化をそのまま反映した収入状況となっています。
 このため現在の家賃額――5〜6万円台が36%、7万円台以上が26%――について、70%の世帯が「たいへん重い」あるいは「やや重い」と感じています。
 また、低収入者には一定の家賃減額が行われる高優賃(高齢者優良賃貸住宅)への期待も、たいへん高いものがあります。
<UR賃貸永住希望73%>
 ○ 第3に、公団住宅(UR賃貸住宅)での永住希望世帯が大幅に増えています。73%の世帯が今後の住まいの選択として「公団賃貸住宅に長く住み続けたい」と希望しています。いまの団地を“終の棲家”と考えている方がたくさんいると思われます。
 そのため、家賃値上げなどにより家賃支払ができなくなること、あるいはUR住宅が民営化されてしまうことなどを、今後長く住み続けるうえでの住宅に関する不安として、多くの方が挙げています。
 このように、・長い居住年数の世帯が多くなり、・女性の世帯主が多くなり、・単身ないし2人世帯が大多数となり、・世帯主の高齢化が急速に進み、・年金が収入の中心世帯をはじめ低収入世帯が激増し、・多くの方が「公団(UR)賃貸住宅に長く住み続けたい」と願っている――というのが現居住者の実態です。

●現居住者をどうするか――国会附帯決議の実行を
 国土交通省がつくった都市再生機構のあり方に関する検討会資料の「見直しの主な論点に対する委員からの意見」では、「現にUR賃貸住宅に住んでいる高齢者、低所得者の扱いをどうしたらよいか」という論点が提示されています。
 これについて私は、国会が都市再生機構に要求したことをきちんと実現するべきだと申し上げたいと思います。
 特殊法人改革ということで都市基盤整備公団を廃止して独立行政法人にするため、2003年の通常国会で都市再生機構法案が審議された際に、衆参の国土交通委員会では当時77万戸の居住者の居住の安定をきちんと行うことが各党の委員から強く求められ、政府は居住の安定策を推進すると答弁しました。そのことを確認する意味からも、衆参両委員会で賛成多数で法案が可決された際、野党第一党の民主党委員が代表して「独立行政法人都市再生機構法案に対する附帯決議」を衆参それぞれで提案し、全会一致で決議しました。
 附帯決議はお手元の資料のとおりです。
 平成15年5月14日の衆議院国土交通委員会の附帯決議は、第3項で「既存の賃貸住宅について、居住者の居住の安定を図ることを政策目標として明確に定め、居住者との信頼関係を尊重し、十分な意思疎通と連携の下に住宅や利便施設等の適切な維持管理を行い、快適な生活環境の確保に努めること」としています。参議院は第7項で「居住者の居住の安定を図る」ことを決議しています。
 私はこの国会決議にもとづいて、現居住者の居住の安定策を推進することは政府の責務である、と強く主張したいと思います。
 UR賃貸住宅がいわゆる「住宅セーフティネット法」でセーフティネットの役割を果たすべく組み入れられたのは、現在の居住者の実態とこの国会附帯決議からして、きわめて必然的なことであります。

●76万戸の賃貸住宅の今後のあり方について
 国土交通省の論点整理資料は、「都市再生機構が現に保有・管理している76万戸の賃貸住宅をどうしたらよいか」という論点が出されています。これについて私たちの意見をいくつか申し上げます。
 第1に、76万戸のUR賃貸住宅は今後とも、適切な管理組織とシステムのもとで、いま住んでいる居住者だけでなく、多くの国民・都市住民にとって不可欠の公共住宅として、国民共有の財産として、良好な維持管理のもとで継続させるべきだということです。
 今回の独法見直しの結果、都市機構が引き続き経営管理することになるのかどうなのかわかりませんが、都市機構にどのような措置がとられようとも、UR賃貸住宅はわが国におけるかけがえのない公共賃貸住宅資産であることに変わりありません。日本住宅公団以来、半世紀にわたって築き上げ、蓄積してきた団地管理のノウハウ、そして無数の居住者たちがたずさわってきた集合住宅におけるコミュニティ活動は、世界に誇るべきものと私たちは考えています。それは当初から今日に至るまで、歴年の入居者の家賃等の支払いによって形成され、維持されてきたものであります。
 国土交通省の資料では、わが国の公共賃貸住宅数と全住宅数に占める割合は、公営住宅が201万戸・4.1%、都市機構・供給公社が90万戸・1.8%、合計291万戸・5.9%です。
 外国について単純に公的住宅の戸数でみると、イギリスの公営住宅は19%、フランスの社会住宅17.3%、ドイツの社会住宅6.4%、アメリカは公営住宅3.7%ということで、わが国の公共賃貸住宅はイギリスやフランスに比べるときわめて少なく、国民にとってはたいへん貴重な存在であり、大切にしていかなければならないのです。民営化などあってはならないことです。
 第2に、いま各地の多くの団地では、高齢者および子育て世帯の新たな入居が増えてきています。「住宅セーフティネット」の中心は公営住宅であるけれども、今日、公営住宅はほとんど増えていません。東京などものすごい倍率であり、その厳しい現実のもと、公共住宅に入りたいという高齢者・子育て世帯の願いがUR賃貸住宅に向けられています。
 東京近郊の住宅地で今後、急速に高齢化が進行することが資料で示されています。高齢者世帯、高齢者独居者などの住宅問題が大きな課題になるでしょうが、民間賃貸住宅では入居を断られるなど相変わらずきびしく、UR賃貸住宅は「最後の望みの綱」ともいえる存在になっています。
 高齢者向け優良賃貸住宅制度は、もともと国は民間を事業主体の中心にするはずだったのですが、民間ではあまり進まず、約3万戸の実績のうちの約2万戸、65%を都市機構が供給しています。団地外からの入居が多いのが特徴です。そして高優賃をさらにふやしてほしいとの希望が各団地で強く出されているのです。
 少子高齢化対応への取り組みが広がり、「在宅長寿対応」「生活支援アドバイザー配置」「安心住空間創出プロジェクト」などもはじまっていますが、地域の拠点として団地が役割を果たすことが期待されています。
 UR賃貸住宅の団地は安全・安心な遊び場があり、緑が多く四季とりどりの花が咲き、子育てには絶好の環境があります。規模の大きな団地には保育園があり、幼稚園や学校まである団地もあります。いきなりマンションを買えない若い、子育て世帯にとっては魅力です。そうした若い方々の入居が増えているのです。
 団地の環境は地域にとっても魅力的です。放課後や学校が休みの日には、団地周辺のマンションなどから子供たちが遊びにきます。公共住宅だからこその役割をはたしています。
 UR賃貸住宅では外国人居住者が増えています。ブラジルはじめ南米諸国、中国、韓国、インドなどアジア諸国の人びとなど国際色豊かです。インド人が自治会役員になった団地もあります。国際化が進むなかで、さまざまな問題をはらみながらも外国人に住宅を提供する役目を受け持っているのが現実であり、中部地方では自動車産業を支える出稼ぎ動労者の住まいをUR団地が担っています。
 第3に、地震国日本の大都市における、公共住宅としてのUR賃貸団地の存在の価値のことです。1995年1月の阪神・淡路大震災では被災地域に数万戸の公団住宅がありましたが、住棟の倒壊は無く、住宅内で亡くなった方は1人もいなかったのです。被災者の仮住宅として空き家の提供も行われました。
 都市機構はすべての住棟の耐震診断を実施し、新耐震基準を満たしていない建物の改修を進めてきています。それとあわせて、居住者による自主防災組織が積極的につくられ、防災訓練を系統的に行っているUR団地は災害対策上でも貴重な存在です。
 最後に第4として、各地のUR団地には自治会がつくられ、長年にわたってさまざまな活動を持続的に行い、コミュニティをつくりあげてきました。公団住宅・UR住宅は単に政策・供給サイドからだけで形成されたものではまったくなく、そこを自らの住まいとして、暮らしを立てる居住地域として選択した居住者たちの、自主的・自発的な取り組み、コミュニティ活動の創造・発展によって、きわめて価値あるものとしてつくりあげられてきているのです。現在のUR住宅団地を、そこに住んでいる・あるいは半世紀にわたって住んできた人びとの努力の結晶に理解していただきたいということです。

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