報告=代表幹事 多和田栄治 (公団住宅売却・削減阻止運動本部長)
公団住宅「再生・再編」報告・学習集会を開催
公共住宅としての公団住宅を守り抜こう
T 公団住宅民営化と再編方針

1)私たちは20年以上にわたって民営化を阻止してきた
再編方針の内容をお話しする前に、理解を深めていただくためにも、これが出てくるまでの経過を簡単に振り返っておきます。
 公団住宅の民営化はもう20年以上前から、電々や専売公社、国鉄等の民営化と合わせ、主として財界筋、行政改革審議会が唱えていました。これを政府の方針としたのが13年前、1995年の特殊法人改革、さらには2001年の公団から独立行政法人への移行決定と目まぐるしく変遷をたどってきました。日本住宅公団から住宅・都市整備公団へ、次には「住宅」の大看板を降りして都市基盤整備公団、都市再生機構と名称も次々変えてきました。ねらいはあくまで公団住宅の削減、廃止、民間売却でしたが、私たち居住者のねばり強い反対運動と世論の力で食い止められ、そのつど名称を変えることで「改革」を見せかけてきました。だから数ある旧公団で都市機構のように名称が転々と変わったところはありません。名称を次々変えざるをえなくしたのは、私たちの自治協運動があったからですが、またそうするなかで家賃を市場家賃化する、団地管理を民間委託にする、新規の住宅建設はやめる、など執拗に民営化への手を打ってきたとも言えます。
                                    
2)なぜ民営化、その前に削減・売却か?
 さて、いよいよ本番。政府みずからが都市機構の3年後民営化を視野において、真正面から公団住宅の削減・売却方針を打ち出してきました。
 ここでちょっと立ち止って、「機構の民営化」と「公団住宅の削減」の関係について、私の考えを述べておきます。民営化とは運営組織を民間会社にすることですし、株式会社の目的は利益をあげることですから、もうかる見込みがなければ「民営化」は実現しません。
 都市機構を見ますと、賃貸住宅事業は、つねに純利益を計上している優良企業ですし、なにより11兆7千億円という莫大な資産をもっています。これだけでも、「官から民へ」のかけ声に乗じて財界からすれば、すぐにでも乗っ取りたい、「民営化」にのどから手を出したいところです。
 しかし、もっと利益効率のよい民営化を図るには、事前に取り除いておいたほうがよい障害があります。機構の住宅には、利益をあげる上で不都合な居住者がおおぜい住んでいます。そのほか機構は、バブル後の地価下落を食い止めるために機構に無理にたくさんの土地を高く買わせた代金の繰越し欠損金をいまも4千億円台はかかえています。この累積赤字穴埋めのためにはカネが必要ですから、資産の一部を売るしかありません。
 その思惑が、財界用語で都市機構の「スリム化」要求となって現われました。
                                      
3)財界の本音丸出し答申がそのまま閣議決定へ
 2006年12月の規制改革・民間開放推進会議(議長は日本経団連の草刈副会長)の第3次答申にはっきり読み取れます。
現在の賃貸住宅77万戸は多すぎると前置きして、@公営住宅階層の居住者が大半を占めている物件は機構から切り離し、地方自治体に譲渡せよ、A建物を広域的に集約化して整備敷地を造成し、民間に売却せよ、B機構住宅の削減目標を明確にせよ、C定期借家契約を幅広く導入せよ、等々のほか、D繰り越し欠損金の解消時期は平成30年度末となっているが、解消時期の前倒しを図れ、と細かく指示しています。E機構の都市再生事業にかんしては「民間では実施困難な採算性の低い事業に限定し、事業が進みリスクが少なくなった段階で民間に売却すべし」と、この下品な、あまりの露骨さにはあきれます。                          07年6月、安倍内閣はこの財界主導の答申内容を丸呑して「規制改革推進のための3か年計画」と表紙をかえ、政府方針として速やかに実施することを決めました。これにハッパをかけるように10月、経済同友会は公団住宅をすべて5年、遅くとも10年以内に処分するよう提案したことも見逃せません。
 政府が公団住宅削減・売却の方向を打ち出すと同時に、首相を本部長とする行政改革推進本部は、すべての独立行政法人(101法人)の「整理合理化計画」の07年内策定を急がせ、議論の焦点は都市機構の民営化に移されました。

4)都市機構の民営化にマッタをかけた自治協運動と、深まる政府の矛盾
 機構の民営化をめぐっては、マスコミを巻き込んでの民営化を叫ぶ渡辺行革担当大臣のパフォーマンス対、公団住宅の民営化を否定する冬柴国土交通大臣との「対立」という形で報道され、閣議決定の直前に福田首相の裁定で「結論は3年後に見送り」で当面の決着をみたという経過をたどりました。
 渡辺対冬柴の対立、民営化先送りの背景には、民営化反対の私たちの運動と、本当に公団住宅をなくしてよいのかという世論の高まりがあったことは、いうまでもありません。自民と民主の両党に公団住宅居住者を守る議員連盟がつくられているのも大きな力です。またこの無謀な政府の方針が、国会付帯決議や住宅セーフティネット法等との矛盾をさらし、矛盾を深めて政府の手足に絡まってきたことも明白です。

U 団地をどうする? 4つの類型

 機構民営化は3年後に先送りになったとはいえ、しかし機構による団地再編方針は待ったなしに動きはじめました。しかし考えてみると、3年間暫定の機構が10年先、30年先の削減と見通しを語る根拠は、私には理解できません。
 ともあれ2018(平成30)年度までの10年間に、再編に着手する約10万戸のうち約8万戸を削除する計画と、あわせて繰越し欠損金を前倒し解消する計画を立てました。そのため機構は全国の77万戸、1,806団地を4つの類型に大別し、この10年間の処分方針を定めました。

1)団地再生の類型は3つ、現在建て替え事業継続中の団地を中心にした「全面建て替え」、既存住宅を残す継続ブロックのほかは事業ブロックとして住棟を解体し一部に新規賃貸を建設する「複合型」、団地規模を縮小するだけの「集約化」の3つの方式があります。

2)用途転換は、団地丸ごとの売却。

3)土地所有者等への譲渡、返還は、耐震診断の結果をからめての返還が多く、返還後は民間マンション、事務所ビルに建て替えられるようです。
  集約化と用途転換、返還は、とくに北海道に多く、ついで宮城、北九州、東海も少なくありません。明らかに経営見通し本位に、地域の住宅セーフティネットまでも含め地方を切り捨てていく政策が読み取れます。

4)ストック活用は、戸数では7割以上にあたり、「従来どおり適時・適切に計画修繕等を実施することを基本とするとしながらも、団地ごとの立地・特性に応じて」と持って回った説明をしています。検討段階では、この類型はさらに、投資の重点化を図るため、グレードアップ団地、収益改善投資団地、投資抑制団地、現状管理維持団地に4分類していましたが、現実にはそうするのではないかと思います。またこの類型の団地も今の方針ですと、10年先といわず、やがて売却・削減の対象にする計画です。

V 団地再編方針の問題点

1)私たちの借家権、移転通知に応じなければならないか?
 @は一部売却、AとBは団地の全面売却であり、いずれも居住者に移転を求めることになります。団地再編の第1の難問は、居住者が移転に応じるかどうかです。生活の根を下ろし、ここに永住したいと望んできたわが家、この地域からの移転は、とくに高齢世帯にとって、いのちを縮めるほどの苦痛です。まして道理のない追い出しには応じられない思いです。
 同じ団地か、よその団地に代わりの住宅を斡旋する、引越し代ももつし、家賃も極力上がらないようにすると言われても、移転はゴメンと思う人は多いでしょう。しかし機構の方針に逆らえるものかどうかの不安があります。そこで私たちの居住権について考えてみます。
 私たちは機構と特定の住戸、何棟の何号室というふうに賃貸借契約をかわし、借家権をもっています。借家人に明け渡しや移転を求めるには、家主に「正当事由」が必要です。機構は団地再編方針を国策だの国家的事業だのと理由を付けるでしょうが、いまの借地借家法では再編方針は正当事由にはならないと思います。正当事由は弱い立場の借家人の居住継続を保障するための制度ですから、私たちには契約している住戸に住みつづける権利があります。
 しかし現実には家主に正当事由がなくてもカネで権利を買うことはできます。裁判所も家主が適切な措置をとれば、正当事由がなくても明渡し請求を認めることがあります。公団の建て替えも正当事由がないから金銭給付、つまり住宅斡旋や移転料、家賃差額の負担をして事業してきたのです。今回の再編方針も同じでしょう。
 権利があるといっても、居住者全体が一つにまとまっていなければ、バラバラでは権利は実現しません。多数の居住者が家主のいうことに従えば、少数者の抵抗は難しくなります。逆にいえば、多数が移転を拒否すれば家主は強制できません。「入居者の同意なしに住棟の売却はしない」との機構中期目標や機構理事の国会答弁も、裏返せばそのことを意味します。
 借家人の権利をふまえて機構の計画をはね返すなり、有利に交渉するうえで、居住者どうしの結束が基礎ですし、何よりも大切です。
 きょうは詳しくお話できませんが、借家権を骨抜きにした定期借家契約の大幅な導入を機構は計画していることだけを報告しておきます。

2)移転を迫る「セーフティネット型出資金制度」とは?
 団地再編にむけて最初に政府がとった予算措置が、移転をすすめるための出資金制度の創設であることをみても、団地削減・売却の成否は円滑に居住者を移転させ、追い出すかにかかっていることが分かります。住まいを脅かすのに「セーフティネット型」、居住安定型と銘打ち、異例ともいえる400億円もの出資したことは、政府の並々ならぬ構えを示すものです。うち300億円は移転を余儀なくされる低所得高齢者等の家賃減額費用に、100億円は土地の有効利用に活用されるといいます。
 しかし400億円はファンド、元手ですから、そのまま家賃減額等に回されると早合点してはいけません。利回り年2%として年間8億円程度が使われるだけです。利息分で強制移転させようというのでしょうか。400億円の元金は使われずにそのまま残り、民営化で株式会社に移るさいの資本金になるのかも知れません。
 では、低所得の高齢者等が移転先でどの程度家賃減額されるのか気になります。2月27日の衆院予算委員会第8分科会の議事録をみると、公明党の上田議員は「低所得の高齢者や障害者などの既存の入居者の家賃負担額の増加を最大で50%ほど減額するための新たな出資金制度」と発言されています。家賃増加分を少しは下げる、つまり値上げもありうるとのことです。移転させられたうえ、家賃も上がることはあっても下がることはないことが、はっきりしています。

3)一変した「建て替え」の理由と性格
 従来は、とにかく「老朽化」を建て替えの理由にしてきましたから、原則として団地の古い順に全面建て替えを実施し、自治協の運動によって戻り入居者の家賃措置などが改善されてきました。この方式は破綻したのか、また閣議決定もあり、今回の再編方針で、仕掛り中の一部団地を除いて打ち止めにしました。
 機構が「一部建て替え」と称する複合型再開発では、同一団地内で既存住宅を継続管理するブロックと、住棟を解体して更地にするブロックに分け、更地を民間マンション用に売却するとともに、一部に機構が新規に高層賃貸住宅を建設することになります。既存住宅が残してあるのだから、従前居住者の新規住宅への戻り入居に特別措置は必要なしと廃止しにします。入りたければ新規入居者と同額の家賃を払えというわけです。確かに機構の説明文書には「建て替え」の文字はありません。あるのは解体と新規建設だけですから。機構は「戻り入居」の考えは捨て、片道切符しか売りません。
 同じ団地内で、これから何年も既存住宅を残す区域と、解体し一部に高層住宅を建設する区域に分けての再開発となれば、住棟解体の理由は「老朽化」とはいえなくなります。
 建物はいずれ取り壊すとはいえ、適切な処理をすれば後何年くらい支障なく利用できるか、もはや建て替えすべき時期かを判断する基準、技術は、とくに国民共有の資産を大切に活用するうえで不可欠のはずです。その基準も技術ももたず、また居住者に納得のいく理由説明もせず、住棟を解体し居住者に移転を強要するのは、民間売却のための敷地造成が目的といわざるをえません。
 機構はもっぱら「市場ニーズとのミスマッチをなくす」といいます。採算が取れるかどうか、もうかるかどうかを基準に、居住者の願いや団地の実情、建物がまだ十分使えるかどうかなどはお構いなしと言わんばかりです。

4)「ストック活用」の中身は?
 最近、機構は「団地再編事業」にむけて内部の組織名も変えています。予算も団地再編中心になるでしょう。私たちの払う家賃が、団地の環境改善や住宅修繕にあまり使われず、住宅が壊され、追い出されるために払うとすれば、こんなバカな話はありません。
 安心して平穏に住んでいたい私たちにとって、「ストック」だの「活用」だのイヤな言い方です。機構は近年さかんに「費用対効果」「投資の効率化」「経営改善が先決」と言います。修繕や環境整備等の切り下げ、民間委託の拡大で管理サービスの低下など、4つのどの類型に属する団地も等しく影響を受けます。
 類型の説明の際、ストック活用団地を団地別にグレードアップ型、投資抑制型、等々の差別化を検討したと言いましたが、まさに今後、その点が露骨に表れてくるようになり、各団地の自治会の力量も問われることになりそうです。         

W 本当に公団住宅を減らし、なくしてもよいのか?

 ネットカフェ難民に見られるように、住宅事情は改善されるどころか、さらに悪くなっています。公営住宅の新規建設は皆無にちかく、応募率は数十倍にもなっています。この倍率を下げるために、わが国は建設促進ではなく、応募資格をさらに縮小する政策をとっています。公団住宅も削減方針をとり、廃止・民営化の方向を進めています。
 良質の公共賃貸住宅はまだまだ不足しています。国民要求は無視することはできず、一方で住宅セーフティネット法を制定し、付帯決議のかたちでそれを反映させていますが、現実にはその具体化を図らず、むしろ逆行する政策が見られます。
 多様かつ一定量の公共住宅があってこそ民間住宅市場も健全に発展します。公共住宅がない、あるいは無に等しく、民間資本に野放しにすれば、その結果は自明、まして良好なまちづくりは望めません。国と自治体の責任で、人間の尊厳に価する最低限度の居住保障をするよう要求することは、国民の権利であるばかりでなく、義務でもあります。
 アメリカでは低所得者住宅で金儲けをたくらむサブプライムローンの破綻と、貧困層の悲惨が見られます。かたや、イギリス、フランスでは、公共切り捨ての結果と反省から公共住宅の積極的な充実に乗り出しています。
 私たちの今回の運動の意味はきわめて大きいと言えます。           

X 住まいを守り、公共住宅制度を発展させる私たちの課題と運動

 機構の団地再編方針にたいする当面やるべき課題として、つぎの点だけを指摘しておきます。
 機構方針について、早くから居住者間で十分な話し合いと論議をし、理解と意思の統一を図ること。
 機構は「方針は出たが、団地別計画はまだ決まっていない」としています。この時点で機構にたいし、@計画検討の当初段階から事業完了まで住民参加の原則を守る、A自治会−自治体−機構の三者協議を中心に計画検討をする、B住民の反対が多ければ実施しない、自治会提案を積極的に検討し実現を図る、この3点の確認を求めていくこと。                                                
                                                           以 上

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