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「今後の公的賃貸住宅制度等のあり方に関する建議(案)」
に対する意見書を提出

 8月7日、「今後の公的賃貸住宅制度等のあり方に関する建議(案)」が社会資本整備審議会住宅宅地分科会公的賃貸住宅部会から出され、それに対する意見(パブリックコメント)の募集が8月18日(金)までの間行われました。8月10日に開かれた第2回在京幹事会で、全国自治協としての意見を提出することとし、井上事務局長が意見をまとめました。公団住宅の存在意義・役割等について不明確であり、小泉内閣の公団住宅制度廃止など公共住宅政策の縮小路線が国民生活にとって正しいのかどうか、公平な方向を明らかにするために継続審議にすべきという主張を込め、8月18日、国土交通省住宅局に提出しました。以下、その意見書です。



国土交通省住宅局住宅総合整備課 御中

「今後の公的賃貸住宅制度等の
      あり方に関する建議(案)」に対する意見

2006年8月18日
全国公団住宅自治会協議会
事務局長 井 上 紘 一

 社会資本整備審議会住宅宅地分科会公的賃貸住宅部会が7月27日にとりまとめを行い、国土交通省住宅局が意見募集している「今後の公的賃貸住宅制度等のあり方に関する建議(案)」に対して、全国公団住宅自治会協議会の意見を提出します。 
 結論から申し上げると、今回の建議(案)は、公団住宅(現「都市再生機構賃貸住宅」)が半世紀にわたって果たしてきた、そして現在もなお果たしている重要な役割と、そのことを踏まえた今後の公的賃貸住宅制度のあり方についての審議が十分行われたと考えることができないので、私たちは、同部会が国民的意見を公正に反映する手だてをとることなどもしながら継続して審議することを求めます。

 今後の公的賃貸住宅制度の中で都市機構住宅はどのように位置づけられるのか
 全国公団住宅自治会協議会は1974年に全国各地の公団住宅自治会が結集して結成され、これまで32年間にわたり「住みよい住宅・住みよい団地」、「安心して住みつづけられる公団住宅」、「公共住宅政策の拡充」をめざして、国会、政府や公団(都市再生機構)に要望を提出するなど居住者要望実現のためにさまざま活動を続けてきました。その立場から「建議(案)」について言いたいことが多々ありますが、差し当たり次のことに絞って申し上げることとします。
 「建議(案)」がめざしているのは、末尾に書いているように、公的賃貸住宅制度等のあり方の基本的方向を示し、今後の具体的な制度設計を行うことです。そうであるならば、都市再生機構の賃貸住宅(公団住宅)の存在と役割について、もっと明確に積極的に位置づけるべきだと考えます。「建議(案)」の記述は、都市機構賃貸住宅全体を公的住宅としてどうしていくのか方向性を明らかにしておらず、十分に理解することができません。
 わが国の公共住宅政策の3本柱の一つとして1955年(昭和30年)以降、半世紀にわたって蓄積されてきた約77万戸の都市機構賃貸住宅(公団住宅)について、その歴史といま厳然と存在し都市住民の居住確保に不可欠な役割をになっている事実を、もっと積極的に認めるべきではありませんか。事務局作成の参考資料(「公的賃貸住宅等をめぐる現状と課題」)には都市機構賃貸住宅関係も整理されているので、意図的にその存在を軽く見ようとしているとは考えたくありませんが、建議(案)の記述は、非常に弱々しい。これに対して、同じく「中堅ファミリー層」向けの特定優良賃貸住宅は、制度発足して12年、16万戸弱の供給実績ですが、こちらの方を何かと持ち上げて、公営住宅に並ぶ存在のように取り扱っています。
 「都市機構賃貸住宅」という固有名詞は全文中3カ所しか出てきません。
 その最初は、2(1)「公的賃貸住宅の現状と課題」の冒頭、「公的賃貸住宅(公営住宅、特定優良賃貸住宅、高齢者向け優良賃貸住宅、都市再生機構賃貸住宅、地方住宅供給公社賃貸住宅等)のストック数は343万戸である」と述べている部分です。加えて343万戸のストック数のうち都市機構賃貸住宅が77万戸、22%を占めていることも明らかにしていただきたい。
 次には、3(2)「公的賃貸住宅のセーフティネット機能について」の【公営住宅制度を補完する公的賃貸住宅制度における助成措置】に、「入居者の家賃負担を軽減するための助成については、公営住宅制度を補完するセーフティネットの観点から、地域の住宅市場の状況等を十分に勘案した上で、既存の民間賃貸住宅ストック並びに特定優良賃貸住宅、都市再生機構賃貸住宅、地方住宅供給公社賃貸住宅等の公的賃貸住宅を有効活用しながら……」と書いている箇所。
 最後は、同じく3(2)の【公的主体が保有するストックの活用】の項で、「都市再生機構や地方住宅供給公社の賃貸住宅、改良住宅等の公的主体が自ら保有する既存賃貸住宅ストックについては、現状において公営住宅階層が入居し、地域において公営住宅を補完する住宅セーフティネットの機能を果たしている場合がある。この現状を踏まえこれらの公的賃貸住宅については、公営住宅を補完する観点からの住宅セーフティネットの位置づけや活用方策を検討する必要がある」との記述においてです。
 なぜにいちいち「公営住宅を補完する住宅セーフティネット」などと持って回った言い方をするのでしょう。従来、公団住宅は「中堅所得層」を施策対象としてきました。明確な役割がありました。それが変更されないまま都市再生機構の賃貸住宅に移行したと、私たちは理解しています。同時に、私たちは、アンケート調査により機構住宅の大半の居住世帯が第1〜2分位のいわゆる「公営住宅階層」になってきている現実を明らかにし、設定されている施策対象層との乖離が激しくなり、居住者の居住安定の施策の必要性が高まってきていることについてくり返し指摘してきました。機構住宅が「公営住宅を補完する住宅セーフティネットの機能を果たしている場合」というのは、このことを言っているのでしょうか。しかし公的賃貸住宅ストックの4分の1を占める機構住宅すべてに対してそう言っているようには考えられません。機構住宅の全体の役割についてきちんと位置づけてください。
 通常国会での住生活基本法案に対する付帯決議は次のように決議しています。
 「住生活の安定の確保及び向上の促進に関する施策の推進を図るため、交付金・補助金、税制等財政上の支援の充実に努めるとともに、住宅政策の実施機関として重要な役割を果たしてきた住宅金融公庫、独立行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社等について、これらが担うべき役割を踏まえ、その機能を十分発揮させていくこと。」(衆議院国土交通委員会付帯決議第6項)
 
 公団住宅廃止・民営化の政策経緯を省みて、今後への積極的提案を
 いま私たちが最も問いたいのは、「特殊法人改革」に端を発した公団住宅に対する1990年代後半以降の一連の縮小・廃止・民営化政策は、本当に正しかったのかという問題です。とりわけ、小泉内閣が「聖域なき構造改革」、「官から民へ」「民でできることは民で」を叫び、戦後の公共住宅政策をことごとく民間主導型に変更するために行ってきたことは、すべて正しかったのか? という問題です。現にそこに居住し、今後とも住み続けたいと願っている国民の立場から、私たちは「小泉内閣の公団住宅制度破壊政策はゆるせない」と主張し続けてきました。しかし、小泉さんが首相就任直後に編成した行政改革推進本部と同事務局は「はじめに廃止・民営化ありき」とばかりに、私たちの声を真剣に聞こうとしませんでした。当時の建設省(すぐに国土交通省に移行)はこの行革推進本部との間で公共住宅政策の必要性をめぐって議論されたようですが、結局押し切られ、今日に至る路線が着々と敷かれてしまったのです。
 本当に、これは正しかったのか。国家の財政再建のことなどが表向きの口実ではあるけれど、住宅政策を国民のために推進するためには別の選択肢もあったのではないのか――この疑問は、社会資本整備審議会の答申を拝見し、住生活基本法案の国会審議の全体を傍聴し、そして次々に打ち出される住生活基本計画案や今回の建議(案)を見れば見るほど、つのってくるばかりなのです。社会資本整備審議会住宅宅地分科会や同公的賃貸住宅部会は、現政府の政策を追従し護持するだけではいけないのではないでしょうか。公団住宅に対する政策経緯について冷静な省察を行い、公団住宅が独立行政法人化された都市機構の賃貸住宅になった功罪について、検討を加えるべきだと思います。
 情報公開されている、たとえば第1回公的賃貸住宅部会(平成18年6月29日)の流れを見ると、たしかに事務局(国交省住宅局)から一定の資料が出ています。しかしその資料は、いまの方向を確定するのに都合の良いように事務局がとりまとめたものでしかないと思われます。しかもそれを会議の席上に出して通り一遍の説明をするだけのようです。そしてせっかく準備された膨大な資料も論議に十分活用されていないようです。会議の模様は議事録によりある程度把握できますが、少なくともこの第1回部会では公営住宅を中心にした委員と事務局とのやりとりがほとんどで、都市機構住宅をめぐっての議論は会議の最後のほうで委員(横浜市の方)がUR住宅建て替えで明らかになった居住者の低収入の実態にふれていますがそれだけで、根本的な議論はまったく行われていません。第2回部会(7月27日)は会議録未発表ですのでわかりませんが、1時間30分の会議は建議(案)の発表に向けた部会であり、都市機構住宅に関して突っ込んだ審議はなされなかったと思われます。
 今年の通常国会での住生活基本法案審議において、住宅政策のあり方、公共住宅制度と都市機構賃貸住宅について審議されました。各党議員の発言や北側国土交通大臣や山本住宅局長(当時)の答弁など非常に重要なその内容を公的賃貸住宅部会に対して事務局が報告しているかどうか知りませんが、国会での審議を無視して審議会だけで重大政策を決めていくことがあるとするならば問題です。
 衆議院国土交通委員会での住生活基本法案審議第1日(2006年4月18日)で次のような応答がありました。煩を厭わず会議録から紹介します。
 長妻昭委員(民主党) 今回の住生活基本法をいろいろ審議いただいた審議会〔社整審住宅土地分科会のこと〕のメンバー……を見ると、不動産会社の方あるいは大学の教授等々、建物、一戸建て等々の会社の方ということで……提供者の論理でつくられている、つまり、役所とかあるいは業界とか……そっちの都合でつくられて、居住者は二の次、生活者は二の次……。この中に、例えば居住者側の立場の方、マンション管理組合の代表の方とか消費者の方とか……公団にお住みの方とか、そういう住む側の立場を代弁する方というのはおられないんですか。
北側国土交通大臣 居住者の立場からの意見をきちんと言う人を入れておくということは大切なことだと当然私も考えておりますし、そういう方々がこの中にちゃんと入っているというふうに認識しております。
 長妻委員 どなたですか。
 北側大臣 ○○○○さんという方は住居論とか居住論が専門分野ですし、○○○○さんという方は住居学が専門、また、○○さんという方は生活保護だとか貧困問題だとか、そういうことについて御専門です。
 長妻委員 いや、学者の先生も悪いとは言いませんけれど……実際に本当に御苦労されておられる方〔が入っていない〕。……日本一の不動産会社の社長さんとか、戸建て住宅などで非常に有名な社長さんとか、あるいは財団法人の方とか、そういうところがたくさん入っているわけでして、これは、国土交通省がこの審議会というのは独断というか公募をしないで決めているわけで、非常に提供者に都合のいいような理屈で答申が出て、こういう答申が出たから法律をつくりました、こういうことでは困るわけです。今後、公募するなり、そういう代表者を入れるなり、ぜひしていただきたいと思います。
 国会でのこの応答を胸に刻んでいただきたい。

 継続して審議し、都市機構賃貸住宅のあるべき方向の全体を示してほしい
 私たちは、「今後の公的住宅等のあり方」について、社会資本整備審議会住宅宅地分科会の名によって打ち出す建議であるのならば、都市機構賃貸住宅についてもっとしっかり議論をしてほしい。居住者が「なるほど」と確信をもつことのできる建議に仕上げるために、継続して審議していただきたいと思います。
 公的賃貸住宅部会で継続審議を行うに当たっては、次のことを求めます。

 (1) 都市機構賃貸住宅に関する審議においては、公団住宅の50年の歴史の重みを明確に説明できる人、全国の公団団地が地域づくりや街づくりに果たしている役割と居住者の実態を説明できる人等の意見を部会として聞くこと。また、たとえば日本住宅会議のメンバーなど公共住宅政策を重視している大学教授・研究者からも意見を聞くこと(先に引用した国会質疑で指摘されているように、公営住宅を担当している地方公共団体の住宅政策担当者と国交省の方向に沿った政策を主張する業界代表や教授等だけでは、公平かつ包括的な審議にはなりません)。

 (2) 私たちは、国土交通省住宅局住宅政策課が募集した「住生活基本計画(全国計画)」に対して、7月27日にパブリックコメントを提出しました。この意見書で私たちは、「住生活基本法は憲法13条および25条に則るとの大臣答弁をふまえ、人間の尊厳にふさわしい最低限度の居住確保を国民に保証する国の責務とその実施を明確にすることを求め」、同計画案の第2、4「住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保」について、最小限明記することとして次の2点を主張しました。
 @ 「基本的施策」:公的賃貸住宅・民間住宅のいかんを問わず、公営住宅の入居要件をそなえたすべての入居者を、「目標」に示された施策の対象者とみなすこと、その対象者にたいしては公営住宅法にもとづく家賃措置を講じること、を明記すること。
 A 「指標」:施策の対象となる者について、収入等の要件、家族数等に応じた家賃負担の限度基準を明記すること。最低居住水準未満解消の当初目標から遅れることすでに20余年たちます。「早急に解消」の継続ではなく、解消の実施年限を定めること。
 このことについて十分検討することを求めるものです。 

 (3) 建議(案)の内容について次のことを指摘します。継続審議においてご検討ください。
 @ 「2.賃貸住宅の現状と課題」は、住宅事情の地域による格差の拡大、大都市圏の住宅事情の現状をみていません。過密・過疎それぞれの地域の状況があるのに全国平均して何の意味があるのでしょう。
 A 公営住宅の収入超過者(「8.2%」としている)を誇大視する一方で、広範な公営階層の居住の実態から目をそむけています。
 B ストック(建物)の活用について論じていますが、その建物の入居者の家賃負担等、居住の実態を見るべきです。
 C 公営住宅の補完として特定優良賃貸住宅、高齢者向け優良賃貸住宅に重きをおいていますが、その他の公的賃貸住宅制度については見通しを示していません。また高優賃は供給実績の大半は公団住宅で実現してきたもの(管理戸数18,768戸のうち13,967戸、74%強が公団住宅)であることの説明を避けているのは、意図的です。
 D 公営住宅制度と生活保護制度を「両制度の目的に則した役割分担により」連携させるとの論は、公共住宅の意義を「救貧対策」にわい小化することになりかねません。
 E 【公的主体が保有するストックの活用】の項では、都市機構賃貸住宅等の居住者の現状を踏まえて「位置づけや活用方策の検討」の必要性を述べていますが、77万戸についてどのようにしていくのか、その推進の方向を明らかにしてください。
                                                          以 上
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