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                                                  2018年12月19日
                                          全国公団住宅自治会協議会  幹事会


「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」にたいする全国自治協の見解と要求


Ⅰ. 「ビジョン」までの経緯とその概要


 都市再生機構は本日、「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」を発表しました。
 機構が2007年12月26日、「UR賃貸住宅ストック再生・再編方針」を出して10年が経過しています。この方針は、同月24日の閣議決定「独立行政法人整理合理化計画について」が機構にたいし「賃貸住宅の削減、売却等の方向性を明確にした再編計画を策定し実施に努める」ことを指示、これにただちに応じたものです。全国自治協は同方針についてその日に「見解と要求」を表明しました。
 その後2013年12月24日、閣議決定「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」が「収益性が低い団地の統廃合等を加速する観点から、UR賃貸住宅ストック再生・再編方針に基づく具体的な実施計画を平成26年度中に策定する」ことを決めると、機構は2015年3月にその「実施計画」なるものを発表しています。ここでは「具体的な」実施計画とはならず、団地再編の方向づけと推進・加速化の検討にとどまり、「投資する団地と縮小をはかる団地」評価の視点や定期借家契約の積極的な導入、民間事業者との連携手法などを記しています。
 2007年の「再生・再編方針」は2018年度までの方向性を定めたものであり、2015年の「実施計画」をへて、その終期をむかえ、2033年度までの方向性を定めたのが今回の「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」(以下、「ビジョン」と略)です。
 本文は、1「ビジョン」の目標、2「ストックの多様な活用の3つの視点」、3「団地別の方針」の3項からなっており、ビジョンの目標は「3つの視点」に表われています。
1.「多様な世代が安心して住み続けられる環境整備」
2.「持続可能で活力ある地域・まちづくりの推進」
3.「賃貸住宅ストックの価値向上」
 「団地別の方針」では、団地ごとの方向性を管理開始が1980年以降は「ストック活用」(約25万戸)、それ以前は「ストック再生」(約45万戸)に分け、ほかに「土地所有者等への譲渡・返還等」(約2万戸)を類型化し、再生団地の再生手法として「建て替え」「集約」「用途転換」「改善」をあげています。
 そして本文を「2033年度末時点の管理戸数は65万戸程度とします」と結んでいます。



Ⅱ.「UR賃貸住宅ストック活用・再生ビジョン」の特徴

 「ビジョン」には、経緯からも察せられ、また旧「方針」にくらべると、確かな変化を読みとることができます。旧方針のねらいと10年間の実績の評価は別として、記述内容の違いにあらわれた主要な特徴を見ておきます。

1)公的賃貸住宅としての位置づけ、現居住者への視点は一掃しました。
 旧方針ははじめに、UR賃貸住宅全体では「高齢化・低所得化が進行しており、機構が住宅セーフティネットの役割を果たすことが期待されています」と記し、団地再生・再編の3つの方向性として「公的賃貸住宅としてのセーフティネット機能の強化」「地域の住宅政策課題への適確な対応」「都市の福祉拠点としてのストックの再生」をあげ、それに沿って「高齢者の安心居住」「子育て支援」「地域の多機能拠点活用」のための具体的な取り組みを述べています。
これにたいし「ビジョン」は、上記「3つの視点」にみるように、現居住者にむけた視点は遠のき、「公的賃貸住宅」としての位置づけは見られません。「世帯属性に左右されず、多様な世代」を対象に、めざすは「住環境の提供」「民間事業者等との連携によるまちづくり」「機構資産の価値向上」。そこに住む人間の暮らしはビジョン(視野)の外、住宅は「ストック」、収益をあげる資産としてその「多様な活用」まっしぐらに進む機構の方向を明確に打ちだしています。

2)「削減」「再編」の用語は消して、削減の対象団地を大幅に拡大しました。
 2007年の方針は、ストック活用約57万戸、団地再生約16万戸、用途転換約1万戸、土地所有者等への譲渡・返還約3万戸と類別し、団地再生ほか約20万戸のうち、2018年度までに約10万戸について削減・再編に着手し、約8万戸を削減する目標を立てました。削減目標は達成し、建て替えによって約3万戸を新規供給しています。

 「団地再生」の主なねらいが住宅戸数の削減と敷地の民間売却であることは明らかです。機構が成功例にあげる東京多摩地区の多摩平、ひばりが丘の再生事業をみると、建て替えによって前者が戸数2,792戸、敷地面積28haを1,528戸、11haに、後者は2,714戸、33.9haを1,504戸、15.0haに半減、とくに敷地の半分をこえる売却が目を引きます。今後もこの方向を追求するでしょう。
 ところが「ビジョン」では、削減目標を立てながら「削減」「再編」の用語は消しました。その真意は測りかねますが、公共住宅の計画的削減、国民共有資産の売却に社会的大義がないからでしょう。「活用・再生」に看板を塗りかえ、削減をめざし多様な「まちづくり」事業に大きく踏み出しました。削減の対象になりうる「ストック再生」類型を、2018年度末(予定)の約11.1万戸から約45万戸に拡大し、既存建物の多様な活用をめざす「ストック活用」類型は約58.9万戸を約25万戸に縮小しました。



Ⅲ.全国自治協の見解と要求


 「ビジョン」に付記しているのが「経営改善計画」(2014年3月31日)です。そこには、繰越欠損金を解消した後の、2019年度にはじまる第4期中期目標期間に、賃貸住宅事業において「再編にかかる費用が一時的に膨らんだとしても賃貸住宅ストックの再生・再編等を加速し、資産の良質化・負債の圧縮を進めるとともに、収入支出構造を改善する」「2023年度に43%の賃貸住宅事業の営業キャッシュフローマージンを確保する」とあります。
 過去公団期の都市再開発・ニュータウン事業の累積赤字を、機構発足のさい賃貸住宅部門に付け回したうえ、約7,300億円の繰越欠損金を計上しました。これまでの機構の最優先課題はこの欠損金の解消でした。2018年度末に解消見込みとなったいま、機構の事業展開は新たな局面にはいると予想されます。本日発表した「ビジョン」はその号砲です。
 この10年、全国自治協の及ばない地方の団地がかなり削減されてきました。いよいよ機構は正念場、自治協加盟の自治会と各個に向き合うことになり、「ビジョン」のもとに態勢を整えています。「団地別整備方針」も出され、各自治会は新たな構えが求められます。
 全国自治協は、私たちの居住の権利と公共住宅としての公団住宅の存続をおびやかす、ますます危険な情勢に立ちむかい、全国総会および総決起集会できめた方針を確認しあい結束して活動を展開します。

1)私たちには、いまの住宅に住みつづける借家権が保障されています。「活用」「再生」は居住者に移転を強いる正当事由にはなりません。生活の根を下ろし、コミュニティをきずいてきたのは私たち、団地の主人公は居住者です。「ビジョン」に「地域関係者、民間事業者との連携」はあっても、「団地自治会」の文言はありません。事業計画にあたっては、自治会は構想段階から十分に相互協議し、合意に達することを要求します。

2)私たちが期待し協力もする「団地再生」は、終の棲家とし住みなれた団地に安心して住みつづけられる住環境の改善です。「ビジョン」は、「お住まいの方のご意見を丁寧に伺いながら、…移転先住宅のあっせん等を行い、居住の安定を確保しつつ進めます」としています。居住不安をもたらし、追い出しに等しい事業には反対せざるを得ません。

3)私たちが安心して住みつづけるには、「家賃の減免」等の施策が必須です。「ビジョン」に「居住者の居住の安定を確保しつつ」「安心して住み続けられる」としながらも、家賃についての言及は皆無です。継続居住を可能にする家賃施策なしに、現居住者にとってはまさに悪しきビジョン(幻影)です。まずは機構法25条4項の実施を要求します。

4)公的賃貸住宅の不足が明らかないま、公団住宅の削減・売却・統廃合は認められません。2017年「住宅セーフティネット法」改正にあたって国会審議でも、①公営住宅が住宅政策の根幹である、②借家を必要とし、家賃支払いが困難となる世帯は増えつづける、③大都市圏で公営住宅への応募倍率が高いが、増加は見込めない、④住宅セーフティネット機能の強化が緊要であることが確認されました。「ビジョン」が示す方向はこれに真っ向から逆らうものであり、この方向に全国自治協は強く反対します。
                                                       以 上

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