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住生活基本計画(全国計画)案に対する意見書を提出


 先の国会で成立した住生活基本法をもとに住生活基本計画(全国計画)案が国土交通省より出され、計画案への意見募集をしていました。7月22日、全国自治協は住宅政策・家賃対策部会で同案に対する意見を検討・まとめ、意見書を提出しました。

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国土交通省住宅局住宅政策課
パブリックコメント担当 御中
                                             2006年7月27日
                                       全国公団住宅自治会協議会
               
    「住生活基本計画(全国計画)案」にたいする意見書
   
   〜人間らしい最低限度の居住保障にかんする明記を〜

 住生活基本計画(全国計画)(案)にたいして、住生活基本法は憲法13条および25条に則るとの大臣答弁をふまえ、人間の尊厳にふさわしい最低限度の居住確保を国民に保障する国の責務とその実施を明確にすることを求め、意見書を提出します。
 同計画案の第2、4「住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保」に最小限つぎの事項を明記してください。

 @「基本的な施策」: 公的賃貸住宅・民間住宅のいかんを問わず、公営住宅の入居要件をそなえたすべての入居者を、「目標」に示された施策の対象者とみなすこと、その対象者にたいしては公営住宅法にもとづく家賃制度に準じる家賃措置を講じること、を明記すること。
 A「指標」: 施策の対象となる者について、収入等の要件、家族数等に応じた家賃負担の限度基準を明記すること。最低居住水準未満解消の当初目標から遅れることすでに20余年たちます。「早期に解消」の継続ではなく、解消の目標実施年限を定めること。

 意見書提出にあたり、その理由としてつぎに見解を述べます。

1)この計画案には、住生活基本法案審議での大臣答弁の趣旨とその実現のための施策がどこにも見られません。

 私たちは、提案される住生活基本法が「住生活の憲法」となることに大いに期待をかけ法案にたいして、@居住を国民の権利として明文化すること、A居住水準と住居費負担の最低限度基準を定めること、B公共賃貸住宅の役割を再確認し、縮小ではなく拡充を図ること、C居住者の位置づけと基礎自治体の権能を明確にすることを要請してきました。衆参両院の国土交通委員会の各党委員からは概ねこれらの要請をふまえて質問され、審議内容を反映した付帯決議が採択されました。
 これにたいし国土交通大臣は、居住の権利性こそ否定されましたが、「憲法13条と25条の趣旨にのっとり、本法6条と7条で国と地方公共団体が居住の安定確保にかんする施策を策定し、実施する責務を有することを明らかにしている」旨を答弁されました。さらに「住宅困窮者のための住宅セーフティネットを確保することは住宅政策の極めて重要な使命の一つであり」、「公営住宅等の供給が明確に位置づけられている」ことも強調されました。
 私たちが基本法制定によせた要請の立場と基本計画の役割から今回の計画案をみるとき、そこには法案審議のさいの大臣答弁および付帯決議を尊重し実施を図る視点も施策も見い出せません。何のための国会審議だったのかを疑わせ、国会無視の極みといえます。

2)住居費負担の限度基準を定めないのは、国が国民の最低限度の居住にも責任をもたないことを意味します。

 居住保障の要である住居費負担にかかわる文脈では、政府側はきまって「居住ニ−ズの多様化」「消費者選択の自由」の問題にすり替えています。計画案が「無理のない負担で良質な住宅が確保できる住宅市場の実現を目指す」という際の「無理のない負担」の指標は何か。「住宅困窮者が多様化する中で、公平かつ的確に住宅セーフティネットの確保を図る」「居住の安定の確保を図るべき世帯の数を的確に把握する」際の算定基準は何か。世帯収入と居住費負担限度をどうみるのか。基本法にも基本計画案にも、住居費負担にかんする言及はいっさいなく、この基準設定なしに「無理のない負担」の計測、「施策対象世帯数の的確な把握」はありえません。
 日本政府は国連人権委員会の勧告にたいし「相当な住居についての権利」の項で、わが国には、ホームレス等にかんする統計データはない、また政府の設定した住居費の負担能力限度というものはない、と報告しています。この点こそ、日本政府が国際規約および憲法の規定を考慮していないと国際社会権委員会が「懸念」を表明している問題の一つでもあります。
 住生活の基本を「市場において、一人一人が自ら努力することを通じて実現されること」とし、「市場において自力では適切な住宅の確保が困難な者には住宅セーフティネットが構築される」と言いそえても、居住費負担の限度規定、つまり国民の最低限度の居住にたいし国がもつ保障責任の対象、範囲等が明確にされないかぎり、「住宅セーフティネット」答弁は、国の責任回避の逃れ言葉でなければ空文に終わりかねません。

3)私たち「公営住宅等」の居住者の居住の安定を確保する基本的な目標も施策も計画案には明記されていません。

 住生活基本法2条は、都市機構の賃貸住宅等をあわせて「公営住宅等」とし、6条は「住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保が図られることを旨とし」と定めています。ただし「公営住宅等」の居住者が6条の対象者とは関係づけていません。今回の基本計画案は6条の施策の目標として「低額所得者、被災者、高齢者、子どもを育成する家庭等の居住の安定が確保されるよう、公的賃貸住宅のみならず民間賃貸住宅も含めた住宅セーフティネットの機能向上を目指す」をかかげる一方で、具体的に施策としては「低額所得者等に対して、公平かつ的確に公営住宅を供給する」「公営住宅制度を補完する重層的な住宅セーフティネットの構築を図るため」各種公的賃貸住宅を利活用する、と記しています。
 前述したように、住居費負担の限度基準を設けないまま「住宅セーフティネット」の構築とか機能向上といっても、具体的な施策の内容や対象等はまったく見えず、ここにいたっては、イメージの打ち上げだけに終わっています。今回の計画案は住宅セーフティネットを「公営住宅」(「等」ではなく)に限定し、都市機構の賃貸住宅等は「その補完」の役割に位置づけています。「公的賃貸住宅」の建物としての利活用だけに目をむけ、公営住宅収入階層といえる広範な世帯の住宅困窮の実態は基本計画の視野にはなく、この広範な階層の居住の安定を図る施策は、したがって基本計画案にはないというのでしょうか。
 大都市圏で公営住宅は、応募がたえず数十倍に達するほど極端に不足しています。そのうえ、昨年成立した「地域における多様な需要に応じた公的賃貸住宅等の整備に関する特別措置法」が示すように、公営住宅供給は事実上減少策がとられています。計画案がめざす「住宅セーフティネット」を、少なくとも公営住宅収入階層を対象に構築しようとしているのか、それとも既存の極く少ない公営住宅の戸数の範囲内に止めようとしているのか、計画案の「基本的な施策」は後者を指すとしか読めません。

4)公営住宅収入層が大半を占める都市機構の賃貸住宅居住者についても居住の安定確保の方策が住生活基本計画に明記されるべきです。

 全国公団自治協が2005年9月におこなった居住者アンケート調査によれば、世帯主60歳以上が55%(70歳以上27%)と高齢化が急速にすすみ、世帯収入では所得5分位の第1分位層が68%、第2分位層を合わせると79%を占め、ほとんどが公営住宅収入層といえます。同年の国土交通省の資料では、2000年以降の新規入居者さえ、首都圏で第1分位層が6割から9割近くを占めていることを明かしています。
 その一方で政府は、「機構住宅の施策対象は中堅所得層」の建て前を変えず、いまは機構法25条の「市場家賃が原則」をもとに、従来から第3分位層収入を指標にした、現居住者の大半にとって過重な家賃負担を押し付けています。
 住生活基本計画の策定にあたって国土交通省が、居住者の家賃負担能力の実態に着目して居住の安定を図る施策を策定するのか、居住者の実態いかんを無視し機構の建て前を根拠に施策のらち外に置こうとするのか、機構住宅居住者にとっての死活的に重大な分かれ道となります。「住宅セーフティネット」とは何を意味するのかが問われることになります。
 なお、機構住宅居住者の居住の安定確保については、都市再生機構法付帯決議をはじめ住生活基本法案審議と政府答弁、同法付帯決議を尊重し、その趣旨を住生活基本計画(全国計画)に明確に反映させ、その実施のための施策を策定するよう強く要望します。                                  
                                                            以 上 

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