多和田代表幹事が居住者の意見陳述

衆議院国土交通委員会
独立行政法人都市再生機構法案審議 参考人発言内容

                             全国自治協代表幹事  多和田栄治
 
 都市再生機構法案の審議にさいし発言の機会をいただき、ありがとうございます。
全国公団住宅自治会協議会の多和田でございます。
 公団住宅に住む私たちが、都市公団の廃止、独立行政法人化にたいして、何よりも不安に思うのは、今後とも公団住宅に安心して住み続けられるのか、その確かな保証は得られるのか、という点です。
 こんどの特殊法人改革では、公団住宅の現状や役割、現居住者への措置などの論議がないまま、まず公団廃止が決まり、既存住宅は管理の民間委託を拡大、棟ごとの住宅売却に努める方針が閣議決定されました。
 独立行政法人になれば、たえず業務評価され、中期目標に照らして定期的に存廃・民営化が検討されることになります。また肝心の「中期目標」に将来にむけての居住の安定が明記されるのかも不安です。老いをむかえるなかで、安定・継続こそが頼みの住まいが、3年ごと5年ごとに爼上にのせられるかと思うと耐えられません。
 しかし、幸い5月7日の当委員会で、扇大臣から新法人になっても心配はないとのご確認をいただき、ひと安心しているところです。都市再生機構法3条の目的にある「賃貸住宅の安定的な確保」は、現居住者の「居住の安定確保」をも意味しているとのお答えでした。
 大枠では内心ほっとしていますが、現実にいま私たちが直面し痛感している問題を振りかえると、新機構の法案審議のなかで、やはりこれだけは申し上げ、ぜひ改善にむけてのご尽力をお願いしたいとの思いから、意見を述べさせていただきます。

1)まず公団賃貸住宅は住まいとまちづくりのセ−フティネットとして重要な役割を果たしています。
 公団は、まちづくりと一体に集合住宅の建設と管理をすすめ、子育てにも老いを過ごすにもふさわしい住環境を整備しています。公団入居者は特定階層に限られておらず、多様な住民構成で、いわゆるソ−シャル・ミックスの実現をめざしていました。
豊かな住環境は、周辺の人びとにも公共の場となり、団地の広場では近隣マンションの子どもたちも大ぜい遊んでいます。
 建設とあわせ管理が重要です。公団は建設から団地管理までを一貫業務としてきたからこそ管理の質と効率性を高め、管理上のノウハウを活かすことができたと思います。これらハ−ド面での優位性だけでなく、住宅団地はもっぱら人びとが生活する場ですから、家賃などソフト面での居住保障が求められました。公団家賃は年々引き上げられましたが、それでも80年代までは家賃負担限度率を目安に一定の政策的努力がなされ、国会からの要請や居住者の運動もあって家賃の安定に配慮が見られました。
 わが国の住宅事情は貧しく、とりわけ大都市の借家居住水準が低いなかで公団住宅が果たしてきた役割は大きかったと評価しています。阪神淡路大震災では、建物は地震に強く団地住宅の倒壊、死者はなく、自治会の連係と結束が被害を最小限に食い止め、公団住宅の良さを実証しました。公団賃貸住宅が今後とも必要であることは、4年前、都市公団法審議のさい、この委員会での参考人発言に概ね共通したご意見だったように思います。
 いまわが国大都市における住宅の実情を見るとき、その改善を民間事業と民間への支援に委ねるだけでなく、公共の直接責任による公共賃貸住宅供給がまだまだ必要ではないかと痛感します。3大都市圏の借家ではまだ2割近くが最低居住水準にも達していない状況です。家賃負担も、かつて政府は最低所得層の2人世帯で収入の約17%、4人世帯なら約15%が限度としていました。しかし現実には収入の2〜3割、いやそれ以上も稀ではありません。
 建物が安全で住環境に恵まれ、家賃も収入に見合って支払いでき、安定していることが、生活の基盤をなす住まいの基本条件です。これを最低限保障する住まいのセーフティネットが構築されていなければなりません。私たちの不安は、公団改革や新法人設立そのことではなく、住まいのセ−フティネットが見えないままに、公団住宅の縮小や民営化がすすめられようとしている点にあります。

2)ここで公団住宅居住者の現状を紹介しておきます。昨年秋に全国自治協がまとめた集計です。特徴は、世帯の高齢化と収入低下が急速にすすみ、永住希望と家賃引き下げの希望が強いことです。
 世帯主60歳以上が半数(49%、1999年調査39%)を占め、1人住まいが増え小家族化がすすんでいます。収入は低下しており、所得5分位でいうと、そのもっとも低い年収 469万円未満の第1分位層は64%(99年53%)、うち 260万円未満の世帯が31%にもなっています。公団は今も中間所得層の第3分位を施策対象としていますが、現実には低所得の第1分位、 625万円未満までの第2分位を合わせて78%、第3分位以上は15%にすぎません(不明7%)。給与生活者は5割を切り、年金生活世帯の急増が見込まれます。公団の定期調査もこの傾向の急速な進行を予測しています。
 公団は国会答弁で、最近1年間に入居した世帯の収入分位を強調して、全居住者の生活実態には触れようとしていません。以上に述べた居住者の収入実態からみて、多くは公営住宅入居資格層に重なり、公団住宅は公営住宅の役割を担っていると言えます。この現実に則して公団家賃のあり方等を見直す必要があります。
 なお、約7割が公団住宅への永住を希望しながらも、家賃値上げや、棟ごとの売却など将来が不安と、ほとんどが答えています。「公営住宅に住み替えたい」が1割近く、あわせて8割が安心して住める「公共住宅」を求めていることになります。
 本年4月から、この深刻なデフレ不況下もかかわらず、公団は継続家賃を値上げしました。住宅事情のきびしい東京支社管内を例にとると、継続家賃平均は8万1,300円に上がっています。立地によっては築40年の老朽住宅でも、近傍同種家賃を理由に1万円近い値上げ、4〜6千円の値上げもかなり見られます。空き家はリニュ−アル
工事をしますから高くなるのですが、新しい入居者の募集家賃平均は8万8000円、民間家賃にそろえるため一部値下げもしました。古いままの継続家賃は新規家賃とほぼ変わらぬ高さまで値上げされており、低所得が大半の継続居住者にとって大きな負担になっています。
 公団の高齢低所得者等への特別措置は、現在額の据え置きが限度で、引き下げ、減免は事実上なく、いっそうの改善をお願いしておきます。
 まずこの現状を国政の場で検討し、高齢者も子育て世帯も安心して入居でき、健全なソ−シャル・ミックスの実現できる家賃制度をつくっていただきたい。あわせて、公団が行なっている近傍同種家賃なるものの鑑定方法や、鑑定結果から各戸の家賃を算出する方式にみられる不透明な問題点とともに、右肩上りの時代につくられ、いまや不適切となった公団家賃の改定ル−ルを抜本的に見直す必要があると考えます。公団からは建て前の説明だけで、鑑定や算定内訳を事例に則して質問しても、「企業秘密」とばかり一切答えないのでは、ル−ルの名に値しません。

3)住宅管理の民間委託拡大、さらには民間事業化が、公団住宅を社会資産として良好に維持する上で、ただちに有効・適切といえるか疑問に思います。    
都市公団は、既存住宅を「ストック」とよび、住宅管理の重点を、その「ストック再生・活用」事業に移して「効率的な投資」を図ろうとし、建物の維持保全は後回わしにされる恐れがあります。そのうえ管理業務の最前線の全国26の公団営業所さえすべて廃止・外部化し、現地業務、団地居住との接点をなくそうとしています。管理に責任をもつ組織が、自らはその資産とも入居者とも接点をもたず、競争入札による参入をベ−スにいくつもの民間業にそれぞれ業務を委ねることで、本当に効率的な管理ができるのでしょうか。
 都市公団と関連会社との業務契約を見直し透明化を図ることはぜひ必要です。しかし他方、公団の工事だからといって、入居者の家賃と共益費でまかなう住宅の管理もふくめすべて「公共工事」と規定し、入札促進に関する法律でしばることが、はたして適正で合理的かどうか疑問です。大ぜいの人びとが日々生活しているなかで集合住宅を長期にわたって良好に維持保全するには、その建物の来歴を知りつくし継続的に保全工事にたずさわっている、たとえば日本総合住生活などは工事について安心であり、居住者の協力と信頼関係もつくられています。このことを配慮した上での効率的な改革を望んでいます。
 最後に、住宅団地を物理的に管理するだけでなく、居住者相互の助け合いや防災、環境改善など、住みよいコミュニティの形成も管理のめざす課題ですし、私たち自治会にとっても重要な活動課題です。それには、管理者と自治会、地元自治体とのパ−トナ−シップがいっそう大切になってきていることを申し添えます。
 以上、新法人移行にさいし、ぜひ審議し、実現をはかっていただきたい点につきまして意見を述べました。ありがとうございました。        


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多和田全国自治協代表幹事の参考人陳述(写真提供=阿久津議員)